Clover Point 二次創作SS

「よるとよるのあいだに」



夜々~Sweet Steady Sister~


  僕らはあいまいな世界で迷える子羊の心で

  涙も枯れ果てたフリして

  とつぜんめぐり会ってしまった


  ずっと君を探してたよ

  やっと出会えた 君を離さない

  この手をずっとあたためていたいから


 ――平日の午前中。

 病院から寮には戻ってきたものの、まだ体調は全開とはいかず。

 弱り目に祟り目、今度は風邪をひいてしまったわたしは部屋で寝込んでいた。

 合間をみてお兄ちゃんは様子を見に来てくれるけれど、今は授業中。

 寮にはわたしひとりだ。

「……むー」

 暇。ひま。

 熱が下がってくると、何もすることがない。

 部屋にある本は既にあらかた読んでしまったものだし、長時間読むとまだ頭が痛くなってくる。

 動き回るほどの体力はないけれど、ベッドの中で出来ることなんて知れているし。

 出来ることなんて――

 ――そういえば、と思い出した。

「あれから、お兄ちゃんとしてないな……」

 お兄ちゃんは夜、わたしが眠くなるまで傍に居てくれるけど。

 あの時以来、夜々の身体に触れてはくれない。

「……もう、してくれないのかな」


 ――やっぱり、しちゃ駄目なのかな。


 わたしにだって、解っている。

 お兄ちゃんに関する全ての記憶が鮮明になった今、あの時のお兄ちゃんの動揺も悩みも、理解できるような気がする。

 でも、お兄ちゃんとわたしは、お互いのことを、ずっと記憶し続けることを選んだ。

 どんな痛みも、どんな苦しみも、このお互いが好きと言う気持ちを忘れてしまうことに比べれば、取るに足らないから。

 わたしはそう思うし、お兄ちゃんも――きっとそうなのだと思う。

 でも。だからこそ、同時に思ってしまう。

 体の繋がりを持つことは。我慢しないことは。そんなに、いけないことだろうか。

 わたしには、どうしてもそうは思えない。

 子供を作る事を考えると、それは勿論、軽々しく考えてはいけない行為。

 快楽だけが全てではない。

 それは誰に言われるまでもなく、理解しているけれど。

 だけど、愛情を確かめたいとき。ぬくもりが欲しいとき。

 今のわたしには――気持ちだけでは、まだ足りない。

 大体、そんなことを考えているだけで、もやもやしてきてしまうというのに。

 お兄ちゃんの匂いを、視線を、肌の感触を思い浮かべると、その全てが鮮明に思い出せる。

 それだけで、わたしの熱はどんどん上がってしまう。

 お兄ちゃんのことを思うだけで、体の芯が熱くなっていくのを止められない。

 この熱は――風邪のせいじゃない。

「………………」

 部屋を見回す。

 暇潰し用に置いてあるぷちぷちロールに眼が留まる。

 あれ……ああして、こうして……

「使える、かな……」

 もぞもぞとベッドから這い出して、ちょっとした作業。

 ……ぷちぷちシートを、適当な長さに切って、ぷちぷちを表にしてくるくる巻く。

 輪ゴムで二箇所ほど止めて、出来上がり。

 完成品を改めて見てみると。

「……ぐろい、かも」

 ちょっと微妙……でも、感触はまあまあ。

「……ん」

 布団の中で、パジャマのズボンを半分だけ下ろして。

 下着をずらした隙間に、そっとそれを差し込む。

 指を大事な箇所に当てると――もう、そこは既に濡れそぼっていた。


 ねえ。

 お兄ちゃん。

 お兄ちゃんを思い浮かべただけで。

 もう、こんなになってるんだよ?

 ねえ、解る?

 夜々は、こんなにえっちなんだよ?

 ――お兄ちゃんの、せいなんだよ。


「入る、かな……」

 ぐにゅり、と変形しつつ、筒が秘裂に飲み込まれていく。

「あ……」

 声が漏れてしまう。

 ぐにゅっ。ずりっ。

「んっ……」

 ゆっくり、ゆっくり……出し入れしてみる。

 充分に濡れていない箇所で、若干引き攣れるような感触があるけれど。

 今のわたしには、それすらすぐに快感になる。

 筒と指。両手を使って、秘裂を弄る。

 割れ目の上の突起にぷちぷちが擦れ、指が滑る度に――電流が走る。

 ぷちゅっ。ずりゅっ。ぷちゅっ。


 ああ。

 お兄ちゃんが、欲しい。

 お兄ちゃんと、したい。


 ぷちゅっ。ぷちっ。ぷちっ。

 この感触が。

 この冷たさが。この熱さが。

 この硬さが。この優しさが。この痛みが。この快楽が。

 全て、お兄ちゃんの手が与えるものであって欲しい。

 この指はお兄ちゃんの指で。

 この筒は、お兄ちゃんのお○ん○んで。

「はぁっ……きもち、いい、よぅ……おにいちゃん……っ」

 ぐちゅぐちゅっ……ぷちん。ぐちゅっ。

 どんどん指と手の動きは激しくなり、筒が中でかき回される。

 ゆっくり――そして、段々とピッチを上げて、わたしは筒を出し入れする。

 ひん曲がり、圧縮されて膣内に押し付けられるぷちぷちがわたしをこそぎ、撫でる。

 そして捩れるたびに、爪を立てるたびに、中でどんどん弾ける。

「はぅっ!」

 それこそが待っていた瞬間。

 快感と別種の達成感が、わたしをさらに興奮させていく。

 ぷちぷちっ……ぷちぷちっ……ぷちぷちぷちっ……


 お兄ちゃん。


「……あー、あはっ……ふぁ」

 ぷちっ。ぷちゅっ。ずちゅっ。ぷちゅっ。

 中でぷちぷちが捩れ、潰れ、さらに弾けていく。


 お兄ちゃん。お兄ちゃんっ。


 どんどん指の、筒の動きは大きく、激しくなっていく。

 唇からは唾がこぼれ、視界は熱に浮かされて朧にぼやける。

「……っ!……あ……はっ……はぁっ……!」

 気持ちよくて、涙が出るほど私は乱れている。

 ――この光景をお兄ちゃんが見たら、どう思うだろうか。

 馬鹿みたいだと思うだろうか。

 でも、馬鹿でもいい。

 気持ち悪いと思われてもいい。

 お兄ちゃんが居てくれるなら。

 お兄ちゃんが、夜々だけを見てくれるなら。

 わたしは、それだけで幸せになれる。


 お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃんっ……

 おにいちゃん、おにいちゃんっ、おにいちゃっ、おにいちゃん……っ!


 そして――指が一際激しく中を擦りたて、もう一方の手が思い切り筒を中に押し込んだ、その瞬間。

 ぷちっ!ぷちぷちぷちぷちぷちぷちっ!!!

「あはぁっ!……いあああああああああぅっ!!」

 残ったぷちぷち、全てが爆ぜる音とともに――わたしは絶頂した。

 ぷしゃああああっ――

「あはっ……!ふぅ……ふぅ……ふぅ…はぁ……あ……」

 潮吹き、というのだろうか。

 絶頂と同時に、私は失禁したようになっていた。

 ぴしゃぴしゃと漏れる液体とリズムを合わせるように、びくん、びくんと自分のお腹が痙攣するのがわかる。


 ……シーツ、濡れちゃった。


 くたり、と脱力したわたしは仰向けになって、天井を見つめる。

 それはいつもより、ちょっとだけ遠くに見えた。

 ――そのまま、ゆっくりと眼を閉じる。


 ……たぶん、今までのわたしは。

 貯金もないのにクレジットカードで買い物をしていたようなもので。

 今だけ幸せならいいと思っていた。

 力も何も持っていないのに、世間となんて戦えばいい、と漠然と思っていた。

 でも。今は、何をしたらいいかがわかる。

 ずっと、お兄ちゃんと幸せに生きてゆきたい。

 でも、わたしたちを待つ世界は、きっと昼より夜のほうが長い、そんな世界。

 だから、そのために。

 短い昼の世界を大事にしたいから。

 お日様の下で怯えないようにしたいから。

 もっと、強くならないと。

 もっと賢くなって、もっとうまくやらないと。

 胸を張ってお互いが一番好きだと、わたしたちの大事な人たちに、いつか言えるように。

 ――頑張らないと。


 眠気が襲ってきた。

 ――んしょ。

 下着くらいは、直しておかないと――

 そう思いつつも、脱力した体はまるで動こうとしない。

 意識が急速に眠りの海に沈んでいく。

 こんこん、とドアをノックする音がする。

 ああ、と夢うつつの中で思う。


 ――おかえりなさい、お兄ちゃん。

 いつも、ありがとう。

 あたたかい世界を、ありがとう。

 いつだってお兄ちゃんは、夜々のお日様だから。

 ずっとずっと、いつまでも――


  僕らはありふれた季節に迷える子羊の心で

  夢など忘れてたフリして

  とつぜんめぐり会ってしまった


  きっと君は気づいてたね

  二人出会えた 奇跡はきっと

  このままずっとどこまで続いてく


  I love You I need You

  愛の言葉はいらない

  どんなにどんなに悲しい夜が来ても

  僕がそばにいるから


  ――つじあやの「そばにいるから」




裕真~Bravery Brother's Bride~


 

 「夜明けまえ」

  風の音が やみそうにない夜は

  よけいなことを考えてしまう

  世界中で ただぼく1人だけが

  ゆるしてもらえないような気分


 廊下を歩いている間も、頭の中でずっと音楽が鳴っている。

 それは心に刺さった棘に絡みついて、離れようとしない。


  ねぇ君が愛してるって聞く度に

  ふっとよぎる このどうしようもない感じ


  今 風がふきぬける この街で

  ぼくは目をこらした

  空のずっと先に 夜明けを

  みつけようとして…

  しばらく ヤミを みつめた


 こんこん。

 夜々の部屋の前で、そっとドアをノックする。

 本来は駄目なのだが、体調が回復するまで、ということで月姉に許可は貰った。

 お茶とたまごボーロをお盆に載せて、じっと待つ。

 へんじがない。

 ……眠ってるか。

 鍵はかかっていなかった。

 そっと中に入る。

 夜々は寝乱れていた。率直に言って、酷い。

 毛布がかろうじて体を隠しているものの、大分波打っている。

 熱のせいで暑かったのだろうか。

 ……シーツがなんか濡れてるような。

「……汗かいたのか?」

 熱が下がってないのか、と最初は思ったのだけど。

 よく見るとベッドの下には、蹴り出されたと思しきぐしゃぐしゃになったぷちぷちが落ちていて。拾ってみると――まだ、うっすらと彼女の匂いがした。

 ……これは、ひょっとしなくても、アレですか。

 一応、毛布をぱらり、とめくってみる。

「……あー、やっぱり」

 それで俺は全てを悟って――改めて赤面してから、そっと元に戻す。

「また風邪ひくっつーの……」

 つい、苦笑してしまう。

 ……この子は、ほんとに、ねえ。

 俺のことを、思っていたのだろうか。

 眠っている夜々を見て、改めて実感する。

 本当に、しょうがない。

 どうしようもない程に可愛くて、誰よりも愛しい――妹。


 「愛について」

  ただひとつ 木枯らしにこごえる日には

  かじかんだ手を 温めてほしい


  なにひとつ 確かには見えなくても

  おびえることは 何もないから


 ――その日の夜。

 夕食は部屋でとることになった。

 とは言え、普通の食事でもOKになった辺り、夜々も回復してきてはいるようだ。

「だいぶ元気になったみたいだな」

「うん、もう少し食べれそうなくらい」

「夜食でも作るか?」

「ううん。これでいいよ」

 と、俺の持ってきたボーロを指差す夜々。

「……ボーロ食べる?」

 うん、と頷く妹に、俺は袋を開けようとして――固まる。

 ベッドの上には、「あーん」と口をあけた状態で待っている夜々が。

「……どうしろと?」

「……お兄ちゃんが、食べさせて?」

 違う、そうじゃないだろ、と思いつつも。

「……うん」

 この笑顔には、やっぱり逆らえない。

「……ほい」

 ぽん、とまず一個、口の中に放り込んでやると、夜々はもぐもぐしつつ口を尖らせる。

「んー、そうじゃないの」

 ぱくり、と俺はボーロを食べつつ聞き返す。

「……どうすればよろしいのでしょうか、我が妹よ」

 にっこり笑って、夜々は答える。

「口移し」

「夜々……お前なあ」

「もう治ってきたから、お兄ちゃんに風邪移したりしないよ?」

 そういう問題でもないんだけど。

 でも――まあ、これぐらいはいいか、と思ってしまうところは俺の甘さだろうか。

「……すぐ崩れちゃうよ?」

「いいの」

 そうですか、と俺は溜息をついたけれど、まあ、無論嫌なわけではなし。

 ……ボーロを口に含んで、そっと夜々に口づける。

「……ん」

 舌の上に、唾液を吸って柔らかくなったボーロを乗せてやると、そのまま舌を絡みつかせてくる。

「……んっ……はぁ」

 お互いの唾液を味わってから唇を離すと、つうっ……と唾が糸を引いた。

「……お兄ちゃんの味がするよ」

 えへ、と夜々が照れくさそうに笑う。

 そんな顔をされたら、こっちのほうが照れてしまいそうだ。

「もっと」

「……えー」

「もっとなの」

「……わかったよ」

 上半身だけ起こした状態で、ボーロと舌を絡ませながら、夜々は眼で訴えてくる。

 ――お兄ちゃん。今日も、一緒にいて。ね?

 俺も、唇を合わせたまま、そっと頷く。

 ――大丈夫。夜々が眠るまで、傍にいるから。

 俺の表情を見てにっこり笑うと、夜々は再びぎゅっと俺を抱きしめてくる。

 ……結局、ボーロが無くなるまで幾度となく、互いにキスを繰り返すことになった。


  ぼくらが もう少し 愛についてうまく

  話せる時がきたら くらしていこう

  すばらしく すばらしく 毎日が過ぎて

  悲しみに出会う時は 涙を流そう


「……明日の朝はちゃんと起きられそうだな」

「うん。たぶん食堂でみんなと食べられると思うよ」

 そか、と俺は頷いて、それから、ちょっとだけ真剣な顔を作ってみる。

「なあ、夜々。そのままで聞いてくれ」

 ベッドの上に顔を乗せて、夜々の顔の近くで話しかける。

「俺、色々考えて、これから一緒に暮らしていく条件を考えてみたんだ」

 夜々も表情をみて思うところがあったのか、神妙に頷いてくれた。

「うん……話して」

「……まず、二人が付き合っていることは隠さない」

 その言葉に、夜々の眼が見開かれる。

「……いいの?」

「最後まで聴きなさい」

「……はぁい」

「その代わり、兄妹ということは絶対に秘密」

 恋人なのか、兄妹なのか。

 他人に公開できるのは、どちらか一つだけ。

 付き合うことを隠さないのなら、こちらは絶対に隠さなければならない。

 今のところ、知っているのは月姉だけ。

 桜井先輩もひょっとすると気づいているかもしれない。

 だけど、あの二人は言いふらしたりはしないだろうから、自分たちさえ秘密を守れれば何とかなるはずだった。

 最も、お互いの里親には今の所、どちらの事実も秘密にしておく必要があるけれど。

「……うん。でも、ということは……何て呼べばいいの?」

 不安と期待のないまぜになった視線。

 ……ああもう本当に可愛いなあこん畜生。

 でも、ここはしっかり釘を刺しておかないと。

「とりあえず『お兄ちゃん』は、人前ではなるべく控えるよーに」

「……えー。駄目なの?呼びたいー」

 ぶーぶーとブーイング。唇がとんがっている。

「駄目です。あと、当然ながら、人に迷惑をかけないことと、騒がしくしないこと」

 今度は首をかしげる夜々。

「……えっちのこと?」

 ……まあ、避けては通れない話題だよな。

「それだけじゃないけど……まあ、それも、かな」

 夜々はちょっと赤くなって、上目使いで俺を見つめる。

「……いいの?」

「いいの、ってどういう意味だよ」

「……だって。お兄ちゃん、こないだはもうしない、って」

 ああ。たしかにそう思っていたけれど。

 今だって、これが罪深い事だという認識は変わらないけれど。

「しょうがないだろ。俺だって夜々だって、ずっと我慢なんてできるわけないし」

「……そうなの?」

 ぱっと表情が明るくなる夜々。

 ……まあ、大体今日だって、既にキスしちゃってるし。

 あれは兄妹でするキスじゃないよなあ、どう考えたって。

「ただし!」

 赤面しながらも、俺は釘を刺すことだけは忘れない。

「するときは、安全日でも必ずコンドーム付けるから。コンドーム無いときは本番しないから、そのつもりで」

「……うん。ありがとう」

 夜々は嬉しさを噛み締めるかのように、ふかぶかと俺に頭を下げる。

「……何故礼を言う」

 気持ちは解らなくもないけど――それはお互い様だし。

「まあ、妊娠はまず男のほうが気にしてあげないと、って言うしさ」

「そうかもしれないけど、そういう意味じゃなくて……」

 夜々は適切な言葉を捜すようにしばらく考えていたが、ややあって顔を上げて。

 はっきりと、もう一度感謝を告げる。

「うん……本当にありがとう、お兄ちゃん」

 赤くなったまま俺は頷く。

 ――感謝するのは、むしろ俺のほうなんだけどな。

 それに、まだ言わなきゃいけないことがある。

 そう、これが一番大事なこと。


「あと、最後に。――胸を張ることを、忘れないこと」


 はっ、とした顔で、夜々が俺を見た。

 そう。世間は、これを正しくない事と言うけれど。

「俺と夜々の間では、これは正しいことだって。そう感じてるこの気持ちを、忘れないこと」

 心が折れそうなときは、それを思い出せば良い。

 一人だけなら折れてしまいそうな、そんな時でも。

 その記憶があれば、きっと耐えられるから。

 お互いが傍にいれば、きっと大丈夫だから。

 ――向かい合う夜々の瞳から、涙が溢れる。

「いいの?本当に、そう思って……いいの?」

「……守れるか?」

「わたしたち……それだけで、いいの?」

「それだけって?」

「だって……だって、最初、もっときついこと言われると思ってたし」

「例えば、どんな?」

「どんなって……さっきだって、もう夜々とえっちしないって……そう言うと思ってた」

 ――勿論、世間的にはそのほうが間違っていない。

 俺たちは背徳の道に立っている。

 恋人であることを止めて、ただの兄妹に戻る。それがきっと正しい。

 でも、何より俺が、恋人としての夜々を失いたくないから。

「俺が、夜々を誰よりも愛してるから……誰にも、渡したくないから」

 ――だから、これは俺のエゴで。

 これはいけないことだけど。罪深いことだけど。


「俺は――お前の全てが欲しいんだ」


 妹だけじゃ足りない。

 恋人だけでも足りない。

 夜々の全部を、俺は自分のものにしたい。

 そんな言葉に、瞳に涙を溜めたまま、夜々は頷く。


「……うん。ずっと……ずっと、夜々は全部、お兄ちゃんのものだよ」


 ――ああ。

 俺と夜々は、この夜をいつまでも覚えているだろう。

 そして俺たちは、お互いについての記憶を、ずっと忘れないでいよう。

 あのガーデンでの出来事が、夢じゃないように。

 二人のこれからも、夢じゃない。

 夢には、しない。

 だから、出来るだけのことをして、お互いの全てに愛情を注ごう。

 夜々は俺のもので、俺は夜々のものだから。

 ずっと、ずっと――


  「気まぐれ」

  ろくに食事もせずに ぼくらは眠った

  月も太陽も無視して

  やることもなく ただ 体いじりあって

  こんな日がずっと 続いてく気がしたんだ


  あとちょっとだけ眠ったら

  ぼくら無傷で また明日にいける


 

 さて。

 そんなちょっとだけ感動的な光景の後。

「早速だけど、しよ?お兄ちゃん」

 もぞもぞとベッドから這い出した夜々は俺に抱きつく。

「なんかもう色々と台無しだ!」

「何のこと?お兄ちゃん」

 何がって……ああもう。

「あのねえ……大体お前、昼一人でしてたろ」

「……えええっ……な、何で知ってるの?」

 馬鹿ですか俺の妹は。

 しかしそう来るなら俺にも考えがありますよ?

「ふっ……ぷちぷちが好きなんだよなー、夜々は?」

 きゅううううううっ、と夜々の顔が真っ赤になった。

「……だっ……駄目!そんなこと言っちゃ駄目です!」

「ほー、違うのかなー?」

「違っ……ぃゃ、違ゎなぃけど……もぅ……いぢめです」

 こほん、と呼吸を整えた夜々は、俺と視線を合わせないままで。

「……ぷちぷちも好きだけど、お兄ちゃんのほうがもっと好き」

 さっくりと、今度は逆に俺を赤面させる台詞を吐く。

「……ありがとうございます」

 何だこの展開は。

 俺が無理やり言わせたみたいじゃないか。

「……ううん、お兄ちゃんでないと、夜々は駄目なの。お兄ちゃんが全部欲しいから」

 あーもう可愛いなあこいつは!

 ……でも、今日はコンドーム持ってないし。

 お口でもいいけど……それじゃ夜々がかわいそうだしなあ。

 そう言うと、夜々はうん?、と一瞬首をかしげたあと、またにっこり笑った。

「じゃあ、お兄ちゃん。お尻で、して?」

 こっちなら、ゴムつけなくて大丈夫だから――と言う発言に今度は俺の脳が止まった。

「……はい?」

 あー、えーと……あなる?

「そうでーす♪」

 いや、そんな楽しそうに言われても……

「でも、もうくにくにだよ?」

「く……くに……くに?」

 その淫靡な響きはなんですか?

「あー、それは、その……」

 もじもじとお尻を動かす夜々。

「倒れる前、訓練してたから……」

 訓練って……まさか。

「……ひょっとして、それも先輩に吹き込まれた?」

「うん。DVDでやってるの見て、練習したの」

「………………」

 さーくらーいせーんぱーいっ!

 心の中で絶叫する。

 ……でも、まあいいか。俺も興味がないわけじゃないし。

 お尻なら生で出せる、と言うのも確かに魅力的ではある。

「でも、じゃあ……夜々はこっちでも気持ちいいのか?」

「うー……わかんないけど、多分……」

「じゃ、じゃあ……入れてみる?」

「――あ、待って」

 そう言って夜々は悪戯っぽく笑う。

「先に、おくちでおっきくしてあげる」

 ……って!

 いつの間にかズボンが脱がされていた。

「仕事、速っ!」

「ふふーん♪こんばんわ、お兄ちゃん♪」

 こんばんわじゃねえ……と切り返す暇もなく。

 トランクスをずり下げた夜々は、俺のペニスに頬ずりしたかと思うと。

 ――ぱくり。

 そのまま、一気に口に含んでしまった。

「あっ……ちょ、夜々」

 いきなりの刺激に、俺の血液はあっという間に其処に集中していく。

「ふふ……むふ、ちゅるっ」

 夜々の舌でまだ半分皮をかむった状態の亀頭が転がされ、弄ばれる。

「ぷぁ……ろんろん、かひゃくなっふぇひたよ……おひいひゃん」

「しゃぶりながら、喋んなよ……っ!」

 そんな馬鹿な会話を交わす内にも、俺の肉棒はどんどん増長していくわけで。

「あ……そこ、気持ちいっ……」

 舌が亀頭の裏側を撫でるたびに、背中から脳まで電流が走る。

「んふっ……ふっ……ふぅっ……ふっ!」

 ぴちゃっ。くちゅっ。じゅぼじゅぼじゅぼっ。

 舌の回転を上げながら、ペニスを顔を激しく前後させて扱いていく――俺の妹。

 熱に浮かされたように、夜々は俺の状態などお構いなく、物凄い勢いで攻め立てる。

「うんっ……うんっ……ひもひいい……っ?おにいひゃん……っ!いふ?ふぅ……っ!」

 息がだんだん激しくなって俺の下半身にかかる。その温かさすら心地よい。

 夜々の行為全てが、俺をあっという間に絶頂に追い詰める。

「くっ……夜々っ……夜々っ!ああっ……いく、出るっ!」

 激発は唐突だった。

 どくんっ!どぴゅどくどくんっ!どぴゅるるるるっ!!

 夜々の口腔の奥の奥で、白濁が亀頭の先端から激しく溢れる。

「うぅふっ……んぐっ……じゅるっ……んんっ……じゅる……ごきゅ」

 それでも夜々は口を離そうとしない。

 ごくん、ごくん、とゆっくり夜々の喉が動き、俺の精液を余さず飲み干していく。

 一滴も余さず吸い取ろうと決めたかのように、舌を使って俺の幹を絞り上げながら吸引していく。

 しばらくそのままの体勢でいた夜々は、全て絞り舐めとった後で、やっと口を離した。

「……ぷはっ。あは……なんか、おカユみたい」

「……あー、ごめん。久し振りだったもんで」

 我慢できなくて、すぐ出ちゃった。

「ふふ……いいよ、濃くておいしかったし……お兄ちゃんも、溜まってたんだよね?」

 そりゃ、夜々が入院してる間はそれどころじゃなかったし。

 まあ、美味しいはずはないと思うけど――その言葉は嬉しい。

「ふふ――嬉しいな」

 天真爛漫でありながら、どこか蠱惑的な笑みを浮かべて。

「それじゃあ、お兄ちゃん。次は――夜々に、ね?」

 妹は、兄に更なる快楽を求める。


 「アシンメトリー」

  自分が思っているよりも 君は強い人間じゃないし

  抱きしめるぼくにしたって 君と何もかわりなんてない


  ヒドイ嘘をついて ふさぎこんだり

  当ても無い夢を見たり

  生きてくことになげやりになったりして…


  きっと 僕らの明日なんて 始まりも終わりもなく

  そこにぼくと君がいればいい

  君の涙の色はきっと にぶいぼくには見えやしないから

  そう…だから何度も 君のその手を確かめる


「えーと……こうで、いい?」

 四つんばいになった状態で、俺を振り返る夜々。

「……なんか、この体勢恥ずかしいかも」

「お前は今更何を言ってるんだ」

 逆レイプから野外セックスまでこなした娘さんの言葉とは思えない。

「むー……自分からするのと、人に言われてするのはなんか違うの」

 そりゃそうかもしれないけど。

「わがままだなあ……あ、そうだ、夜々。これつけて」

「何……これ……マスク?」

 風邪用のマスクを、夜々に手渡す。

「気休め程度だけど、周りに声が漏れないように。声抑えられなかったら、噛んで我慢な」

「……うん。でも、たぶん漏れちゃうと、思う」

 受け取った夜々は、そう言ってふふ、と笑った。

「何かどきどきする……口塞がれて、後ろからなんて」

 お兄ちゃんにレイプされちゃうみたい、と笑顔のまま言う。

 うん、そこは笑うところじゃないと思うんだ妹よ。

「レイプって……夜々は激しくして欲しいのか?」

「んー、今日は違うけど……今後倦怠期を乗り切るには悪くないかも」

「……まだ早すぎるだろ」

 それに多分、倦怠期なんて来るわけ無い、と俺は思うし。

 後ろからだと、夜々のお尻は思ったよりずっと小さく見えた。

 ずっと臥せっていて肉が落ちたせいだろうか。

「……沢山食べて、もうちょっとお肉つけないとな」

「……え?夜々、そんなに痩せた?」

 愕然とする夜々。しまった。これは禁句だったか。

「貧相なお尻だと、お兄ちゃんに嫌われちゃうかな……?」

「そんなことないよ。でも、ちょっとぽっちゃりでも、夜々が健康なほうが俺は嬉しいな」

「うーん……でも夜々、太るのはやだな」

「運動すれば、大丈夫だよ」

「……運動って、これ?」

 夜々がまた悪戯っぽく笑う。

「……これも含めて、かな」

「ふふっ……なら、大丈夫だねっ……あっ……?」

 そんな馬鹿な会話をしつつそっと秘裂に触れると、もうそこは大洪水だ。

 くちゅくちゅっ。くちゅっ、つるん。

「フェラと会話だけで濡れちゃったのか。えっちだなー、夜々」

「あっ……そんな、こと……んっ……ふぁっ!」

 くちゅ、くちゅ、くちゅ、くちゅっ……じゅるっ。ぬるっ。

 二本の指でぬるぬるの愛液を掻き出して、お尻の穴の周辺にゆっくりと塗りたくる。

「んんっ……お兄ちゃん……じらさないでぇ……」

 試しに指を一本、恐る恐る差し込んでみると。

 ぬっ……ずりゅっ……ずぶずぶっ。

 思ったよりすんなり飲み込まれてしまった。

 前の穴より、入り口の締め付けは流石にきついけれど。

 その中は文字通り底なし沼のような深さを感じる。

「……毎日、綺麗に、してるからっ……大丈夫、だよ?あんっ……」

 まあ大丈夫そうだけど、一応念のため。

 ハンドクリームを亀頭と入り口にもう一度塗って。

 それから、ゆっくりとペニスを菊門に押し当てる。

「……それじゃ、入れるぞ」

「んっ……いいよ……お尻も、お兄ちゃんのものに……して」

 その甘い囁きだけで、脳が焼き焦がされそうになる。

 夜々の細い腰を掴んで、逃げないようにしてから。

 そっと――そっと、小さなすぼまりに挿入していく。

 ぬっ……ぬぬっ……ぬぬぬぬぅっ!

「んっ……んぐっ……」

「痛い?やめるか?」

 ふるふる、と首を振る夜々。

「だい……じょう……ぶ……」

 引き攣れるような感触は殆ど無い。

 夜々が言う訓練の成果だろうか。

(どんな訓練をしてたんだろう……)

 という疑問は残るものの、これならとりあえず裂傷とかは回避できそうだ。

 ゆっくりゆっくり、俺は夜々の中に侵入していく。

「……息が、しづらい感じ……背中もお腹も、ぱんぱん」

 夜々が、快感とも苦痛ともつかない色調を滲ませてつぶやく。

 ……ややあって、何とか根元近くまで入った。

 文字通り、抜き差しならぬ緊張感が俺の肉棒全体を締め上げている。

 膣とは違う気持ちよさが俺を包んでいた。

「お兄ちゃん……動いて、いいよ」

「ああ……ゆっくり、するから……」

 夜々を壊さないように、そっと前後に腰を動かしてみる。

 ぬりっ。ずりっ……ぴちゃっ。

 何度か繰り返すと、その内クリーム以外の液体が境目に混じりだし、溢れてくる。

「あ……なんか、へんだよっ……おにいちゃん」

 ……夜々の身体も少しずつほぐれてきたようだ。

 俺は片手で、割れ目のほうもちょこちょこいじってみる。

 指の腹で敏感な突起をそっと撫でてやると、明らかに夜々の反応が変わった。

「はっ……んはっ、はっ、はあっ……」

 夜々も俺も、どんどん息が荒くなっていく。

 マスク越しでも、夜々の喘ぎは全然減殺されやしない。

「あはっ……やあっ……お兄ちゃん、そこ……びくびくするっ……だめぇっ」

「……やめて、欲しいの?」

「だめぇ……いやぁ……もっと……あひっ……!ふぅっ……!ふぁっ!」

 後半は後ろへの突きに反応してのものだ。

 ちゅぱっ。ぐちゅっ!ぐしゅっ!ぎちゅっ!

 俺の腰の動きは段々激しくなり、夜々もそれに合わせてペニスを迎え入れるよう動く。

 ぴちゃん、ぴちゃんと接合部が体液と汗で濡れた音をたてる。

 どんどん二人は快楽に溺れて、限界に近づいていく。

 底の無い穴の奥の肉壁が、俺の肉棒を絞りたてる。

「あはぁっ、はぁっ、うぁああっ!お兄ちゃん、お兄ちゃんっ、おにいちゃんっ!」

 声を抑える筈のマスクは、いつのまにかどこかに吹っ飛んでいた。

 だけど俺も、もうそんなことを気にする余裕はとうの昔に吹っ飛んでいる。

 夜々からお兄ちゃんと呼ばれるたびに、俺の脳が痺れていく。

 実の妹と、体で繋がっている。

 その背徳が一層快感を高めていく。

 そう、倦怠期なんて。夜々に飽きることなんて、あり得ない。

 夜々と一つになるこの瞬間、快感以外の全てが意味を失っていく。

「ああっ!夜々っ、夜々ぁっ!俺のっ!……俺の……夜々っ!」

 ――俺の、最愛の妹。

「おにいちゃんっ!しゅきっ!しゅぎぃっ!好きぃいっ!!」

 ――夜々の、誰よりも大好きな、お兄ちゃん。

 そして、俺たちは。

「夜々っ……!いく、いくっ!出すぞっ!夜々の中に、精液出すっ!!」

「出してっ!おにいちゃんのせいえきっ!!夜々に、夜々のお尻に出してぇぇっ!!!」

 言葉に続いてぎゅううううっ、と夜々の胎内が収縮した、そのとき。

 二人同時に――絶頂を迎えた。

 どくんっ!どぴゅどぴゅどぷどぷっ……どぷっ!!

「いはあああああああっ!あはっ!あはぁっ……はっ……ぁ」

 ぷしゃああああああああああああああああっ……ぷしゃっ……ぴちゃっ……

 俺が狭隘な腸奥を撃ち抜いて白濁を叩き込んだ次の瞬間――夜々は失禁していた。

 びくんびくんと夜々が痙攣するたびに断続的に噴き出す、黄金色の液体。

 くたり、とシーツに出来た水溜りの中に、お構いなく倒れこむ二人。

「……はぁっ……おもらし……しちゃった」

 うっとりとした表情で、夜々は俺に囁く。

「……でも、きもち、よかったよね?」

 ただ笑って俺は頷く。

 シーツからは、どこか生温かい濡れた感触と――二人の混ざり合った匂い。

 だけど少なくとも今は、それがむしろ心地よい。

 お互いうつ伏せのまま、俺は夜々と見つめあう。

「……だいすき、祐真おにいちゃん――あいしてる」

「……俺も大好きだ、夜々――愛してる」

 そうして、俺と夜々はもう一度。

 ――長い長い、キスをした。


  月のない夜をえらんで そっと秘密の話をしよう

  ぼくがうたがわしいのなら 君は何も言わなくていい


  半分に割った赤いリンゴの

  イビツな方をぼくがもらうよ

  二人はそれで たいがいうまくいく


  きっと ぼくらの明日なんて ヤミでも光でもなく

  そこにぼくと君がいるだけで

  いつでも心の色なんて にじんでぼやけてしまうから

  そう…だから何度も ぼくは言葉で確かめる


 ――ちょっとだけ、哀しい夢を見て。

 俺は、夜明け前に目が覚めた。

 横で規則正しい寝息が聞こえる。

 じっと、夜々の顔を見つめる。

 妹で恋人で学校の後輩で。

 そして誰よりも大切な、俺の家族。

 俺たちの背徳を、罪と呼ぶなら呼べば良い。

 夜々が泣いたときには、俺はいつでも夜々の止まり木になろう。

 夜々が飛べるように。疲れた時は、羽を休められるように。

 ――そしていつか、二人で必ず幸せになろう。

 それを罪と言わず、祝福してくれる神様の前で。

 それを罪と呼ばず、祝福してくれる人たちの前で。

 いつか胸を張って――結婚しよう。


 みんなが動き出す前に、俺は部屋に戻らなきゃいけない。

 だから俺は夜々を起こさないように、そっと頬に口付けて、ベッドを出る。


 みんな起きて来た頃に、みんなと一緒に。

 だけど、みんなにはそれと気づかれないように。

 兄妹で一緒に、朝ご飯を食べよう。

 恋人同士で一緒に、晩ご飯を食べよう。

 二人で同じ夜を過ごし、同じ朝を迎えよう。

 明日も明後日も、その先もずっと。


 それが二人の、どこまでも続く物語――


  「ストーリー」

  ぼくは夜明けを待っていて 君は孤独を抱いていて

  ぼくたちは出会い 二人で夜をこえた


  安全と冒険で君はどっちへ行く?

  退屈と充実で君はどっちをとる?

  そんなにかんたんに えらべるくらいなら

  なんの迷いもなく 幸せになれるか…


  君がぼくに ぼくが君に 求めてきたものを

  ひとつずつ…ひとつだけ


  そしてぼくらは立っている 同じ世界に立っている

  かわっていく心 かわらない願い


  君がぼくに ぼくが君に 求めてきたものを

  ひとつずつ…ひとつだけ


  そしてぼくらは立っている 同じ世界に立っている

  かわっていく心 かわらない願い


  まだ見ぬ明日へ 今その先のストーリーへ

  どこまでもつづく ぼくたちは進む


 ――SUGA SHIKAO:THE BEST HITS OF LIVE RECORDINGS-THANK YOU-より



                  「よるとよるのあいだに」end.