「Somebody to Love」
――年が明け、仕事始めも無事終えて、色々と一段落した週末。
七瀬透はきのした玩具店から帰る途中だった。
ノエルの職員にとって、この時期は半分休暇のようなものだ。
実際、ななみ一家のように年末年始に長めの休暇を取る関係者も少なくない。
しかし、透にとってはあまり関係のない話。
今は親元に帰る気もないし。
さりとて自由な冬休みを満喫しようにも、ノエルの仕事をやっていると普段同級生と遊ぶ機会はあまり無かったので――つまるところ、しろくま町に友人が多いということも無く。
寂しいわけでは、ないけれど――などと思いつつ歩いていると、突然尿意が襲ってきた。
……ぶるっ。
木立を抜ける道の途中。まだ市街地までは、結構距離がある。
ちょっと考えたけれど。
「……しかたないな」
透は林の中に入っていく。
さくり、さくりと雪を踏みつつ、道から影になる所を探して。
ちぢこまったそれを取り出し、用を足す。
………………ちょろちょろちょろ。
「……ふう」
足下の蒸気から顔をそらしつつ溜息をついた、その時。
「立ちションとか、いけないんですねー」
「ひゃああああああっ?」
突然の声に、文字通り飛び上がりそうになる。
……ちょっとかかっちゃった。
「あ、アイちゃん……?」
「……ふふふ。ばっちり見てしまいました」
「あ……いや、その……」
「とーるくんの㍉㍍㌢㌧㌢㌧」
「その言い方はやめてえーっ!」
あわてて後ろを向いてファスナーを上げる。
「むしろ見せつけられてしまったと言うべきでしょうか」
「き、きみが勝手に見たんじゃないか!」
「主観の相違ですね。しかし、客観的に見て立場が弱いのはどちらでしょうか」
「う……」
「○学生にもなって立ちション」
「ぐっ……で、でもここは林の中だし……」
「たー・ちー・しょん」
「ぐぐぐぐ……」
「とーるくんは、いけない子だったんですねー」
「うううううううううう」
あわあわあわ。
目が点になってあらぬ方向を彷徨う。
しかしアイは透の顔を追尾してきた。
「ななみおねえちゃんにいっちゃおーかな……」
ずずいと顔を近づけて、耳元に囁く。
「いや……それは困るかな……」
困るというか恥ずかしい。
と、アイは改めてじーっ、と透の下半身を見て、首をかしげた。
「……あれ、とーるさん、飛沫がズボンにかかっちゃってますよ」
「……え?」
言われてみれば、慌ててファスナーを上げたせいかちょっと汚れていた。
「そのままじゃなんか汚いですね……ハンカチとか持ってます?」
「……いや」
「……ふうん」
「あ、アイちゃん……?」
「わかりました」
え?
「わたしにまかせてください」
「え、え、え?」
何を言ってるのだろうこの子は。
「大丈夫。酔っぱらったお父さんのげろとかも洗ってますから」
それと比べられるのも嫌だなあ……いやいや、そうじゃなくて。
と、混乱している透を尻目にアイちゃんはさっさと靴を脱いでから――よいしょ、と自分の靴下も脱いでしまった。
「……くつした?」
「これで拭いてあげます」
「……ハンカチとかじゃなくて?」
「わたしが手を拭いたりするのに困るじゃないですか。靴下はどうせ帰ったらわたしがお洗濯するから、いいんですよー」
「……そ、そうなの?」
「そうなんです」
……と、いうわけで。
何故か、ふきふき。
正面にかがみこむようにして、アイちゃんは靴下を透の胯間こすりつけている。
「だ、だめだよアイちゃん、こんなとこ、誰かに見られたら……」
「半径1km圏内に人はいません。先ほど確認済みです」
「計画的だったんだ!」
「さて、どうでしょう……ふふっ」
はーっ。
くすりと笑いつつ、アイは息をそこに吹きかけた。
「…………!」
さっきからアイが喋るたびに、吐息が下半身の中心をくすぐる。
「……とーるくん?」
「え……な、な何?」
「……なんですかこれ。かたくなってますよ?」
さわさわさわ。
アイちゃんの手が、靴下越しに撫でるようにそこに触れる。
「……いやその」
なにときかれても。
「まあ、かたいほうが拭きやすいですけど……ふふふっ」
そう言って、アイは縦にそこを擦りだした。
ふきふきふきふき。
こすこすこすこすっ。
「…………!!」
声にならない叫び。
ズボンがあまり厚くない生地だったのが幸い……いや災いだった。
必死に我慢しようとする透を裏切って、下半身は極めて正直に活発化する。
「ちょ、だっだめっ……アイちゃん……」
「おかしいですねえ。さっき見たときは縮こまってたはずなのに、なんか大きくなってる気がします……」
「そ、それは……きみが」
「わたしのせいですか?」
「………………」
ふーん、とアイは微笑む。
「ねえ、とーるくん」
「……な、なんだよ」
「これ、中見せてください」
「…………!」
「さっきのちんちくりんがどうやったらこんなに変化するのか、わたしはきょうみしんしんです」
「そ、それは、アイちゃんが触るから」
「……わたしがさわると、なぜ大きくなるのですか?」
「あうぅ……」
「またおしっこがしたいわけじゃないですよね。では……気持ちいい、のですか?」
「…………うん」
透は正直になってしまった。
「ふうん……では、失礼して」
「……うん……じゃなくてだめ!ほんとに駄目!」
透は我に返った。
「……駄目ですか」
「年頃のおんなのこがそんなことしちゃ駄目です!」
きらり、とアイの眼が光る。
「……ななみさんに言いつけますよ」
「…………ああああああ」
透は陥落した。
「わかったら黙って見せるのです。嫌ならわたしがズボン下ろしちゃいますよ」
「……しくしく」
涙目になりつつ、透はズボンを脱いだ。
「ああ……どうしてこんな事に……」
「とーるくんは往生際がいいですね。しかし白ぶりーふとは今時珍しい……お子ちゃまですか?」
「ほっといてよ!」
「ふふふ……」
こすこすこすこす。
もはや遠慮を忘れたかのように、アイは透のそこをこねまわす。
「うっ……ううううううっ」
「すごい……どんどんかたくなる……」
「しくしくしくしくしくしく」
「ブリーフじゃまです……穴から出しちゃいますね」
「え……ちょ」
口にしたときは既に実行済み。
ブリーフの穴からこぼれだしたそれを見て、アイははあっ、と一回、大きく息をついた。
白い吐息が、寒気に触れて縮こまろうとするそれを包み込む。
「あ……あぅううううううう」
「さて、実は恥ずかしながら、わたしのくつした、今ちょうど穴があいています」
「…………ちょうど?」
「ええ。ちょうどよさそうですね……ここに」
「え……えええええっ……ちょ!」
踵の部分にぽっかり空いた穴。
そこに、透のペニスをすっぽりと包み込んでしまった。
「うっ……うぁあ」
さっきまでアイが履いていた靴下。
さっきまでアイが握って、自分の胯間をこすっていた靴下。
手汗でじっとりと濡れたそれは、所により冷たく、あるいは生暖かく。
こしゅ。こしゅっ……こしゅこしゅこしゅっ……
穴のフチがひきつれた皮と凹凸に引っかかって、擦れる。
「く……くつしたこきなんて……どこで……」
「ふふ……乙女の秘密です」
こしゅこしゅこしゅこしゅ。
「すごい、ぱんぱんになってる……とーるくん、こんなに大きくなってますよ……」
「う……ああっ……うあああっ……」
もう、まともに立っていられなかった。
がくがくと砕けそうになる腰は、無意識のうちに前後に動いてより一層の刺激を求める。
それを包み込むようにアイは強弱をつけて手を動かし続ける。
こしゅっ。こしゅこしゅこしゅっ。ずりゅっ。べちゅっ――
しかし、終わりはいきなりやってきた。
びびびびびっ!
靴下の糸がはじける音と同時に、透は放っていた。
「駄目っ……アイちゃん……うあああああっ!!」
びりゅるっ!びりゅっ!ぶしゅっ……じゅぶっ……!
「きゃっ……」
どこに溜まっていたのか、というくらい大量の白濁が、アイの靴下に吐き出され――あっという間にぐちゃぐちゃに濡らしていく。
「すごい……靴下が……いっぱい」
――その呟きを透は、虚脱した頭で聴いていた。
それはそうと、事後。
「……穴、おっきくなっちゃったですね」
「ぼ……ぼくが新しいの買うよ……」
自己嫌悪の嵐に襲われて真っ青――いや真っ白な透に対し、どこか上機嫌のアイ。
「いいんです。わたしが縫えばいいことですから」
そのかわり――と、アイはまた透の耳元で囁いた。
「……また遊んでくださいね♪」
そう言って。
アイはじっ、と透の眼を見てから――ゆっくりと微笑んだのだった。
P.S.
――夜のロードスター邸にて。
「……中井さん、もう帰ってきたのですか。ななみさんは?」
「あいつは家族でもうちょっと過ごすって言うから、俺は一足先に帰ってきたんだけど」
「……そう、ですか」
「おい……暗いな。なんかあったのか?」
「……ぐすん」
「……え?」
「うわああああああああん><ぼくはもうおむこにいけませんっ……」
そんな冬の一日、だったという。
「Somebody to Love」End.