FORTUNE ARTERIAL 二次創作SS

「Little Heart Mother」



Little Heart Mother


 ――闇の中から。

 東儀征一郎は、目覚める。

 見慣れた自分の居室。

 障子戸のないこの和室は、昼でも灯りが必要なほど薄暗い。

 妹ですら滅多には足を踏み入れぬ、征一郎が休眠するための部屋。

 だが今――傍らには普段見慣れぬ人影があった。

「……白か?」

 いや――違う。

 眷属の能力は、眼鏡無しでも常人より容易く眼を光に慣れさせる。

「――紅瀬桐葉。貴方か」

 桐葉が枕元に座して、こちらをじっと見ていた。

「――気分はどうかしら?」

「……悪くはない」

「こちらに寄ったら、貴方が休眠中と聞いたものでね」

 白と交互に自分を見ていた、と言う。

「桐葉殿がこの屋敷にいるということは――伽耶様も?」

 ええ、と彼女は頷く。

「久し振りに白ちゃんと遊んだり、そこそこ楽しんでいるようよ」

「――そうか」

 あれから、一年以上の時間が経っている。

 支倉や瑛里華は既に卒業。白は今高等部に在籍していた。相変わらずローレル・リングで活動中だ。 自分も大学に進学はしたが、休眠の関係で取り辛い単位もあるため、通常のスケジュールで卒業できるかどうかはまだわからない。最悪、一年ぐらいは余分にかかるかもしれなかった。

 最も、定期的にこの屋敷に戻ってくる必要もあったので、それぐらいの余裕はむしろ征一郎にとっても都合が良いのだが。

 今も、年に一度の祭の下準備で戻ってきている所である。

 休眠の周期も当然計算済み、ではあったのだが――彼女たちの来訪は正直予想外だった。

「……祭を見にこられたのですか」

「さあね――伽耶は何も言わないけど、そうかもしれない。伊織さんは?」

「しばらく会っていない」

 ――ほとぼりが冷めたころ、また学生に戻るさ。

 伊織はそう言っていた。今は世界旅行中と聞いている。

「貴方たちこそ、旅先で会ったりはしないのか」

「しないわね。あの二人、お互い行きそうなところは慎重に避けてるわ」

 その癖メールは遣り取りしてるのよ、と桐葉はうっすら微笑む。

「『ピラミッドはもう見たか婆』とか、『こっちは大英博物館に行って来たわ。小僧悔しかろうが』とか、そんな感じね」

 そういうレベルの、他愛もないメールだという。

「子供の意地の張り合いね。案外、伊織さんも大人気ないわ」

「それは否定出来ないな」

 ――しかし、伽耶様がメールを?

「ええ。瑛里華にはアドレス教えていないみたいだけど」

 機械に関しては私より物覚えがいいかもね、とやや複雑な表情で笑う。

 ――絵文字とかも使ったりするのだろうか、と一瞬考えたが、想像し兼ねたのでやめた。

「貴方は――今後どうするの?」

「……その内、祭は分家に譲ることになるだろう」

 白がもし分家と結ばれて祭を継ぐならそれも良いが、自分としては強制するつもりは無い。

「東儀家として伽耶様に仕えるのは、貴方を最後にするつもり?」

 もはや東儀の家が、千堂の桎梏に縛られる時代は終わった。

「そういうことになるだろう。自分は医師を目指すつもりだ」

「今後も血液を手に入れやすいように、ということ?」

「ああ。伽耶様や伊織に何かあったとき、そのほうが都合が良かろう」

 ――それに加えて、理由はもう一つ。

 自分は、もはや子を作ることはかなわぬ眷属の身。

 だからこそ、決めたのだ。

 せめて妹だけは、普通の人間として子を生み、幸せに暮らしてほしいと。

 伽耶様に仕えるのは――自分が最後でいい。

 伽耶と伊織が生きてある限り、自分もまた生き続ける。

 ならば自分がずっと、彼等を支え仕えればよい。

 それで東儀の家は、もはや過去から解放されるのだから。

「――そう。殊勝なことね」

 桐葉は、共感とも憐憫ともつかぬ表情で征一郎を一瞥すると立ち上がった。

「白さんが帰ってきたみたいね……一旦失礼するわ」

「ああ――来てくれて、感謝する。有難う」

 その言葉に、桐葉は薄く微笑む。

 襖を開けて立ち去る前に、彼女は振り向いて――一言告げた。

「――伽耶に、その言葉は直接言ってあげて」


 ややあって。

 着替える征一郎の背後でぱたぱた、と足音がした。

「――お手伝いしましょうか、お兄様?」

「白か?特に何も――」

 振り返る前に、抱き付かれた。

「お兄様――お慰め、致します」

 ――これは、何事か。

「何を言っている?離れろ、白」

「解っております。兄様が、わたしのために色々考えて下さっていることは」

 背後から抱きしめる、細い腕と小さな掌。

「ですが――わたしは、兄様を置いて自分だけ幸せになることなどできません」

 薄い胸の鼓動が、征一郎の背中で響く。

 どくん、と自分の鼓動もまた早くなる。

 ――ああ、そうか。この白は――心を全て見透かしたような、この言葉は。

「ですから、わたしを――」

 人であった東儀征一郎の遺物。有りうべからざる願望。

 そうであれば良かったのに、という――過去の夢。

「……それ以上は、お止め下さい――伽耶様」

 そう。それは人なれば、或いは求めても良い生き方かもしれない。

 傍から見れば、今の自分は解り易すぎる道を選んでいるのかもしれない。

 だが――東儀征一郎は、だからこそ、己を曲げるわけにはいかないのだ。

 だからこそ、「彼女」をなおざりになど、出来はしないのだ。

 そう、「彼女」――千堂伽耶を。


「――つまらぬな」

 ふん、と鼻を鳴らして、伽耶は背中から離れる。

 いつもの和装ではなく、白い夜着を羽織っていた。

「お前はいつも先が見えすぎる。頭が良すぎるのも考え物よな」

「恐縮です――本物の白は、今何処に?」

「桐葉と居るわ。積もる話もあるようだしな」

 兄と話しておるから邪魔するな、と伝えてあるという。

 何、気取られる心配は無用ぞ――と、そう言って小柄な吸血鬼は妖しく笑う。

「街で瑛里華たちと会う手はずになっておる故――これから家を出れば、晩までは戻らぬだろう」

「――そうですか」

「そうじゃ。だから伽をせい、征一郎」

「…………は?」

「は?ではないわ阿呆。と、ぎ、じゃ」

 つまりは、どういう理由かはともかく。

 伽耶が征一郎に夜這い(まだ昼ではあるが)をかけてきたと――そういうことらしい。

 ……とりあえず作務衣に着替えてから、畳に坐る。

 いつのまにか伽耶は、征一郎の布団の上にぺたんと坐っていた。

 向き合って、征一郎は一つ咳をしてから尋ねる。

「一応、訳を聞かせて頂いて宜しいですか」

「訳なぞ――ふん」

 そう言って口ごもる伽耶の顔には朱がさしていた。

「……母としては、子がいかにして生まれるか、知っておく必要があろうが」

 そう言いつつも、続ける言葉にはどこかいつもの辛辣さがない。

「あたしは身ごもる事はできぬが……女としての機能は備えておる」

 故に試しに契ってみることにした――そう言う。

「………………」

「な、何じゃ!可笑しいか!お前とて欲望がないわけではあるまいが!」

 伽耶は不服そうに叫ぶ。

「あたしとて――同じ。故に、後腐れのないお前を選んだ。それだけ……じゃ」

 だから光栄に思うがよい――と言いつつも、その語尾はぼそぼそと心細い。

「……伊織の眷属たる私で、よろしいのですか」

「他に誰がおる。同族は今や伊織しかおらぬし、きゃつはわが子ぞ」

 大体こんな事をきゃつに頼むわけにゆくまいが――と、伽耶は両腕両足をばたばたさせて主張する。

 確かに。こんな母親の姿を伊織が見たら、何を言ってからかう事やら解ったものではない。

「しかし――伽の相手ということであれば、例えば、桐葉殿もおられましょう」

「本物の阿呆かお前は。あやつは女じゃぞ?」

 心底呆れた、という口調で伽耶は言う。

 その姿は確かに二百年以上を生きた吸血鬼のもので。

 ただし――それから恐る恐ると。

「……ま、まぐわいには、男女が必要で……あろ?そうであろうが」

 とか自信無さげに言ったりさえしなければ、の話ではあったが。

「必ずしも、そうとも限りませんが……」

「そ、そうなのか?」

「……いえ、お忘れ下さい」

 一から説明するのは時間がかかりすぎる。

「……何か馬鹿にされておるような気がするが、まあよい」

 そんなわけで。

 想い人に変じてやれば、征一郎も抵抗が少なかろうと思ったのだと。

 伽耶はそう言ってにっと笑う。

「……それで何故、白の姿を」

「とぼけまいぞ、征一郎。お前は――白を、妹をこそ犯したかったのであろうが?」

「………………」

「よい……よいのだぞ?白を望め。あたしが……あやつの写しとして汝に抱かれてやろう」

 高圧的ながら、その言葉はどこか必死で。

「あたしを――こんな、貧弱な小娘の躰ではあるが……代わりに使うがよい」

 拒否されることを、むしろ恐れているような。

「……主筋とて、遠慮しておるのか?お前が遠慮することなど無いのだぞ」

 その眼は、捨てられる事を恐れる子供のようで。

「あたしが、お前たちの両親にしたことを思えば……」

 ――だからその先を、征一郎は遮る。

「伽耶様。どうか、それはお気に病まれぬよう――それをこそ、両親も望むでありましょうから」

 両親の姿は確かに心が痛む。しかし、今の征一郎にとっては白と――伊織や伽耶のほうがより重要だ。

 過去を生きるのではなく、今を生きるものの事を、生き続けなければならぬもののことを考える。

 東儀の一族は、常にそうしてきたのだから。

 最も、あるいはそれこそが既に自分が伊織の眷属になっているが故、の思考なのかもしれないが――だとしてもそれでよい、と征一郎は思う。

「――伽耶様」

 ――白は、この場に居ない。

 望めば。妹を――幻であってもひと時は、己の手に抱ける。

 だが。だとしても――いや、だからこそ。

 自分の結論は、既に決まっている。

「なんじゃ、征一郎」

「止めるおつもりはないのですね」

「うむ。当然じゃ。何事も勉強じゃからな」

 この期に及んで、そう言い張る伽耶が可笑しくもあり――愛しかった。

 だから、自分は。

「ならば一つだけ、条件を」

「言うてみよ」

「――白の姿ではなく、伽耶様ご自身の姿と、征一郎は契りたく存じます」

 その言葉に、伽耶は一瞬で真っ赤になり――それから、また自信なさげに俯く。

「……よいのか?こんな子供で?」

 上目遣いで、征一郎を見るその姿は、まるで本当の少女のよう――いや、実際にも精神年齢は今もって少女なのだ。

 だから、征一郎は微笑む。かつて、幼い妹を安心させてやったときのように。

「もし望んで許されるなら――伽耶様とこそ、契りたく思います」

 伽耶は伽耶。白は白。

 どちらも交換し得るものではなく――征一郎にとっては、等しく大切な相手。

「征一郎、お前……ろりこんという奴か?」

 伽耶はちょっとだけ引いた視線で征一郎を見る。

 それでも、何処か嬉しそうに見えるのは自惚れではない――と思う。

「……違うとは思いますが」

 シスコンと言われれば反論しようもないが。

「お体の年齢は、伽耶様がお望みの年齢で結構です」

「……二百歳の婆でも良いというのか?」

「伽耶様が、それをお望みならば」

「……ふん。よかろう。お前の言葉に免じて――あたしは今の姿で、お前に抱かれよう」

 ――せいぜい有り難く思うがいい。

 そう言って、えっへん、と無い胸を張ってから、伽耶は、すとんとそのまま布団に倒れこんだ。

「……有難う、ございます」

「礼はよい。ただ……優しく、してたもれ」

 その姿はまな板の上の鯉……いや。

 むしろまな板の上に居るのは、自分か。

「最大限。……しかし、かなりそのお体では、苦痛を伴うかと存じますが、よろしいか」

「やってみなければよろしいかよろしくないかわかるまいが、阿呆」

「……仰る通りです」

「それに、その程度の苦痛など――」

 征一郎は、それ以上、彼女の口から言わせたくはなかった。

「――――!!」

 だから唇を、自らの唇で無理やり塞ぐ。

「んっ……せい……いちろ……んはっ……」

 時間にして、僅かに数秒。しかし、征一郎にはそれが無限に長く感じられた。

「――ぷぁ」

 そっと口を離すと、征一郎は、伽耶に笑いかける。

「……あまり、ご自分を責められませぬよう」

 伽耶は、一瞬、眼をぱちくり、とさせて。

「――ふん」

 頬を赤くしながらも、なお自嘲気味に笑う。

「お前は優しいな、征一郎?大方その手口で、女生徒を堕してきたのであろうな」

「それは、残念ながら」

 ずっと、家と学業と――白のこと一筋できた、自分。

 故に――それも当然ながら。

「征一郎も、初めてです――伽耶様」

「なんだと?お前、童貞か」

「――は。ですから正直申しますと、上手く伽耶様を導けるものか少々自信が有りません」

「なんじゃ。そうか……ふ、ふふっ……ふふ」

「――可笑しいですか?」

 ああ、可笑しいな、と伽耶は笑う。

「ふふ、拗ねたお前の顔など、初めて見るわ――ふふっ」

 何処か嬉しそうに――文字通り、少女の顔で笑う。

「――良かろう。初めてどうしじゃ。恥じることもあるまい」

 そう言って、伽耶は仰向けのまま帯の端を差し出して、征一郎に預ける。

「帯を解くがよい、征一郎。あたしを――抱いて、たもれ」

 その言葉で枷を外されたように――征一郎は体の下の帯を解き、夜着の胸をはだける。

 絹よりさらに白い、少女の肌が露になった。

 薄く細い肢体。あるか無きかの胸のふくらみ。

 そして左右の胸でそれぞれ息づく――淡い桃色の蕾。

 はあっ――

 思わず、息を吐いていた。

「……綺麗です。伽耶様」

「当たり前じゃ。そうっと……するがよい」

 言葉に従い、ゆっくり労わるように、肌とその先の突起に触れる。

「んっ……あたしは、外見は、むやみに弄りたくない……ぁ」

 あれから桐葉と虚心に話してみて、思ったことがある――

 途切れ途切れに、伽耶は征一郎の耳元でそう囁く。

「……あたしは、心もっ……外見に見合うだけ、成長しておると、思い、たぃ……ふっ……んぅ」

 密やかな喘ぎと告白に、征一郎も段々昂ぶっていく。

 最初はそっと……それから、少しづつ大胆に、伽耶の小さな躰を撫で、揉み、捏ねて。

 ――ゆっくりと、全身を舐っていく。

「だが今のあたしは……あっ……やはりっ、まだ小娘にすぎぬっ……違うかっ……あっ、そこっ……!」

 征一郎の指が下半身の翳りを撫でると同時に、伽耶の声の質が変わった。

 ぱっと見には、赤ん坊のようにつるんとしたその部分。

 しかし、撫でるとわずかに柔毛が指先に触れ――ねっとりと絡みつく。

「――何事も、時間がかかるものです、伽耶様」

「か、かも……しれぬがっ……何事も、始めなくては止まったままっ……!」

 ――そうであろ、と言う伽耶の吐息も熱く、湿気を帯びたものに変わっていた。

 ぴちゃり、と指先から、濡れた音がする。

 指を目の前にかざすと――わずかに透明な糸を引いていた。

「こらっ……何を見て……ふぁああっ?」

 征一郎は顔を伽耶の股間に埋めていた。

 柔らかな裂け目に、ゆっくりと、舌をつける。

「これ……征一郎……っ!汚い、であろ……や、め……ふぇぇええっ!!」

 ぴちゃっ。ぴちゃっ。ぴちゃっ。ちゅぷっ。

 こそぎ、汲み出し、舐め取り、啜る。

 征一郎の舌が侵入を繰り返し、狭い秘裂近くの、これまた小さな突起を舐るごとに、伽耶の声は大きく、速く、乱れていく。

「いやっ!……あはっ……やぁっ……ふぁぅ……うぁああっ!」

 続ける内に、いつのまにか伽耶の身体からは力が抜け切っていた。

 くたり、と大の字に寝て、ただ臍の辺りを上下させて、息をつくだけの少女。

 征一郎は顔を上げると――伽耶の耳下で、囁く。

「……行きますよ」

「はあっ……はあっ……ふぁ……?」

 言葉の意味が飲み込めていないままの伽耶。

 その両足を抱えると、愛液と自らの唾液で濡れきった秘裂に、自身の怒張を押し当てる。

 そして――ゆっくり、ゆっくりと。みちみちと、肉の軋む音を立てて。

 征一郎は、伽耶の処女を蹂躙していく。

「いっ……いぎっ!いっ……!」

「――痛いですか?」

 痛くないわけがない。

 だが、それでも、彼女は。

「……い、痛くなど……ないわっ……ばかものっ……」

 涙を浮かべつつも、なお弱音を吐こうとはしない。

「まだ……半分も、入っておらぬぞっ……続けよっ……」

 だが、これくらいが限界だろうか。

 下手をすると、処女膜どころではなく、膣に裂傷が――

「……これ以上は、ご無理かと」

 しかし、征一郎の言葉に、伽耶はむしろ呆れたように笑った。

「ばか者……あたしを誰だと思っておるか」

 ――その時。

「……っ!?」

 それは膣内の裂傷――征一郎の怒張によってささくれた傷が、再生していく感触。

 ――すなわち、真の吸血鬼の再生力。

「――動け。でなくば、お前も一緒に融合してしまうぞ……ん?」

 伽耶の言葉にもまだ力こそ無いもの、若干の余裕が生まれてきていた。

 言葉に従い、そろりそろりと肉棒を注送させると、血と当初の愛液以外にも、纏わり付いてくるものがある。

 膣の肉壁は、新たな傷を付けられると同時に――やはりゆっくりと再生していた。

 内奥から生まれる肉の芽が新たな襞となって、亀頭から茎の裏側まで密着して擦り上げる。

「……くっ――伽耶、様――」

「はっ……はっ……つづ、けよ……」

 それでも、痛みが無いという事は有り得ない。

 いかに吸血鬼とは言え、果断無く新たに膣を押し広げられ、蹂躙される中では再生速度が追いつく筈もない。征一郎が突き込み、軽い躰を突き上げる度に、ささくれた痛みが伽耶を襲っているはずだ。

 だが、それが。それこそが。

 征一郎を――そして伽耶自身をも、更に興奮させる。

 ――彼女自身の血の匂いが、焼けつくような快感をもたらす。

「くっ……伽耶様っ……もうっ……はっ……はっ……はっ……はあっ……!」

「うぁっ……はぁっ……よい……よいぞっ……せぃち、ろうっ……くるが……よいっ……あたしのっ!中へっ……ふぁあああああっ!」

 甘く痺れる許可と同時に、全ての抑制を解かれた征一郎は。

 ひときわ深く、強く伽耶の膣に突き込んで――絶頂した。

「かっ……伽耶様っ……伽耶様っ!!」

 ――全存在を引き抜かれるような快感とともに。

 どびゅ!どくどくどくっ!どくどくどくどくどくどぷっ!!

 伽耶の未熟な膣の突き当たり――子宮の文字通り入口に、精を存分に放つ。

 ――その瞬間、躰全体を突っ張らせて伽耶もまた絶叫した。

「せいっ……いああうううぁああっ!!!」

 びくっ!びくびくびくびくっ……!

 全ての精を出し尽くすまで、二人はそのままの姿で固まっていた。

「「……はぁっ……はっ……はあっ……」」

 互いの息はシンクロしつつ、ゆっくりと落ち着いていく。

 ややあって、ずるりと陰茎が秘裂からこぼれ出てくる。

 同時に力尽きたかのように倒れ込む征一郎を、伽耶はそっと抱き止めた。

 ……ごぼん、ごぼっ……ぴちゃっ……

 多すぎて逆流した精が、一緒に溢れ出してくる。

 今まで繋がっていた部分から毀れる淫靡な音。

 それを躰の内と耳、双方で聴く伽耶の眼には涙が浮かんでいる。

 だが、その表情は、どこか出産直後の母親のように満足げだった。

「……これが、まぐわいか?征一郎よ」

 まだ半ば麻痺した頭で、征一郎は伽耶の柔らかい声を聴く。

「思った程、痛くはない、な……」

 ――ほとんど痛いだけだったろうに。

 なのに伽耶は、むしろとろんとした眼で、征一郎を見つめる。

「……左様で、ございましたか」

「……しかし、お前、精が多すぎるわ……何もかも、どろどろじゃ」

「真に……面目次第もございません」

「……ふん。そのままにしておれ――後始末してやる」

「何を――あ」

 ちゅるん。

 伽耶は征一郎の半萎えになった陰茎を、下から掬いあげるように口に含むと、そのまま舐め上げていく。

 こびりついた精液と、伽耶自身の血、そして愛液をすすり採っていく。

「伽耶さま……」

「ほう?また大きくなってきおった……男というのは、難儀なものじゃな」

「……申し訳、ございません」

「……ばか者」

 かぷり、と伽耶が浅く歯を立てた。

「……!!」

 さすがに縮みあがりそうになる。

「謝るでないわ……あたしで興奮したというのなら……それでよい」

 それに――と、伽耶は悪戯っぽく笑う。

「次からはこっちから血と精を一緒に吸うのも悪くないかもしれぬな、のう?」

「……さすがに、それは」

「何じゃ、いやと申すのか?あたしを散々いじめておいて」

「いじめて、などとは」

「いたいけな小娘を凌辱しおってからに……ふ、ふ」

 伽耶は――笑う。楽しそうに。

「しかしのう……あたしはまだ不満じゃ」

「……征一郎に、でしょうか」

「そうではないわっ!この阿呆っ!ばか!うすらとんかち!」

 語彙が微妙に古い。

「このまま終わったのではあたしがちっとも気持ちよくないではないか!やられ損じゃ!」

「……そう言うんじゃないかとは思っていたけど」

 ――いつのまにか、桐葉が廊下に立っていた。

「だからあれほど言ったのに。もうちょっと身体を大人にしてからのほうがいいって」

「やかましいわ桐葉。征一郎が小さいほうがよいと言ったのじゃ」

 ――若干ニュアンスが違う気もするが。

「……あら、そう。征一郎さん、そういう趣味だったのね」

 はいこれ、と伽耶に新しい着物を渡す桐葉は、あくまで無表情のままぼそりと呟く。

 ……明らかに誤解されている。

 しかし――まあ、ここで反論しても無駄だろう。

 やってしまったのは、事実。

「……白は?」

「今日は瑛里華さんの家に泊まるそうよ」

「……そうか」

 いつの間にか、夜になっていたらしい。

「征一郎!」

 桐葉に着付してもらいながら、伽耶が薄い胸を張って叫ぶ。

「こうなった以上、これからもお前には色々と協力してもらうぞ」

「……協力とは」

「あたしがおんなの喜びを知るまで、ゆるりと付き合ってもらおう」

「………………」

「何じゃ、不満か?不満なら今度こそ白の姿で……」

「――伽耶」

 桐葉の声が飛ぶと、むう、と伽耶は唸った。

「……こほん。それは嘘じゃ」

「――伽耶様」

「何じゃ。嫌か」

「いいえ。東儀征一郎――伽耶様がお望みとあらば、これからも伽を勤めさせて頂ければ光栄です」

「それは――東儀最後の者の務めとして、か?」

「――いいえ」

 はっきりと、征一郎は首を横に振る。

「自分が抱く、伽耶様への思慕によって、です」

「――ふん。思慕、と抜かすか。よりによって……この、あたしに」

 頬を赤らめて、伽耶は視線をそらす。

 ちょっとした間のあと、眼を征一郎と合わさぬまま――ぼそりと告げた。

「祭が終わるまで、屋敷周りを適当にぶらついておる。お前も自由に過ごすがよい」

 そう言うと、帯を締め終わった桐葉を置いてすたすたと外に歩き出す。

「その内、またお前の間抜けた寝顔を見に来る」

 一瞬だけ――征一郎を振り返って、微笑むと。

「せいぜい健やかに過ごせよ――征一郎」

 そのまま、振り返らずに廊下の向こうに去っていく。

 まだ痛みがあるのか、若干足元がひょこひょことふらついていたが。

 しかし、その足取りは――どこか満足そうだった。

 伽耶が先に行ったあと、さて、と桐葉も腰を上げる。

「気を悪くしないでね。伽耶は――まだああいう言い方しかできないから」

「……ええ。理解しております、桐葉殿」

「――そうね」

 微笑んで、桐葉は片手を上げて。

「また、ね。白ちゃんにも、よろしく」

 そう告げて、彼女は伽耶の後をついていく。

 ――姉妹のように。家族のように、これからもずっと。

 あるときは伽耶の影から。あるときは伽耶の横で。

 これからも二人支えあって、永い時を生きていくのだろう。

 廊下の向こうに彼女が消えるまで、征一郎は見送って。

 ――それから、座り込んだ。

「……根こそぎ、か」

 ……へとへとになるまで吸い取られた気がする。

 ただ一人の、真の吸血鬼――伽耶。

 彼女ならば、血だけでなく精から力を吸収できても、確かに不思議ではないが――いや。

 恐らく、そういうことではない。そんな難しい話ではない。

 単に自分が。そして、伽耶様が。

「……ふ……ははっ」

 望みすぎ、望まれすぎた――それだけのこと。

「頑張りすぎた、か――俺としたことが」

 ――らしくない。

 本当に、東儀征一郎らしくない。

 性に、快楽に溺れるなどとは。

 ――だが。

「たまには、それも良いか」

 そう口に出すと、何処かすっきりした気分になった。

 ――自分には、これから永い生が待ち受けている。

 今日の出来事も、いつかは追憶の一つに変わるのだろう。

 願わくば、そのいつかの時に自分が。伽耶様が、桐葉殿が、伊織が。

 皆がせいぜい、健やかに過ごせていられたら――それはきっと、素晴らしいことだろう

 ――さて、それはともかく。

 白が帰ってくる、その前に。

「……布団とこの匂いを、何とかしないとな」

 東儀征一郎は一人ごちて、小さな溜息をついた。



P.S.


「……のう、桐葉」

「何かしら」

「あたしは――ちゃんと母親を、出来ているか?」

「ちゃんと、の定義はわからないけれど……貴方は、良い母親になったと思うわよ、伽耶」

「ならば……征一郎に対しては、どうすれば良いと思う?」

「………………」

「何じゃ、黙らんで答えよ」

「そうね……好きにしたらいいんじゃないかしら?」

「……答えになっておらぬ」

「答えたわよ。好きになったなら、好きなようにやりなさい、って」

「ばっ……好きになどなっておらぬわっ!息子より若い小僧をっ……」

「そう。ならそれでいいんじゃないかしら」

「………………」

「どうしたの?行きましょう」

「いぢのわるいやつじゃな……」

「何か言ったかしら?伽耶」

「何も言っておらぬわ……ばか」

「……はあ。私も、誰か探そうかしら」

「ほう?ふふん――妬けるか?」

「ちょっとだけね」

「ふふっ……征一郎はやらぬぞ」

「安心なさい、盗ったりしないから――ああ、でも、伊織さんならいいかしらね」

「何じゃと?……あやつ、年の割に餓鬼じゃぞ」

「貴方が言わないの。そういえば彼、黒髪の女性が好みと言っていたわね――」

「むう……何処か納得いかぬ……もやもやするぞ」

「安心なさい。だとしても、貴方の傍を離れたりはしないから」

「……ふん。そんなことは心配しておらぬわ」

「ふふ……そうね、伽耶」


                  「Little Heart Mother」end.