遥かに仰ぎ、麗しの 二次創作SS

「The Last Rose Of Summer」




  'Tis the last rose of summer

  Left blooming alone;


  All her lovely companions

  Are faded and gone;


  No flower of her kindred,

  No rosebud is nigh,


  To reflect back her blushes,

  To give sigh for sigh.


 ほそくしろいゆびが傾けるちいさなポットから、琥珀色の紅茶が注がれていく。


「……ふう」

 一口すすった僕は、ほっとするその味につい息をついてしまう。

「あら――なにかお悩みですか、滝沢先生」

 しかしどうやら、それが榛葉には溜息に聞こえたらしい。

「何でもないよ。ただ、ちょっと疲れ気味かな」

 すでに季節は晩夏。

 土曜日の午後、僕は温室でお茶タイム。

 夏休みとは言え、ほとんどの学院生にとってはいつもと変わらぬ週末だ。

 僕自身、補習や後期の授業のための資料作成に追われ、やや寝不足な日々が続いていた。

 けして暇とは言い難いスケジュールだが、そんな中でも息抜きは必要なわけで。

「あらあら。最近は宿直室が先生の息抜きの場になっていたのでは?」

 どこまで知っているのか怖い榛葉のそんな突っ込みはさておき、あれはあれで別の悩みを発生しているのだ。

 寝不足はむしろ――そっちのせいかもしれない。

 みさきちの下着がちらちら見える度に劣情に駆られてしまう今の僕は、榛葉の眼にどう映っているのだろうか?

「相沢さんが一緒でないと寂しいですか、滝沢先生」

「……別にそんなことはないけども」

 うーむ、やはりそう見えているのだろうか。

 みさきちは珍しく体調を崩して寝込んでいる。

 彼女と行動をともにすることが多かった昨今、僕がもう少し気を使ってやるべきだったかもしれない、と反省しきり。

 そんな悶々としている僕に暁先生が与えた仕事が、この秋温室で行われるという高松姉妹の「個展」の仮設営だった。

 双子が描いてきた絵の発表会を、機会を見て温室でやりたいのだという。

 ところが来てみれば言いだしっぺの暁先生と当事者である双子はなにやら別の用事を済ませてから、ということで遅れるらしく。

 結局、僕が榛葉と相談しながら作品の一部で配置を試している次第。

「――しかし、どれもこれも圧倒される絵だな」

 絵の価値など僕にはさっぱり判らないが、それでも双子の才能が尋常でないことくらいは理解できる。

「これで全体の半分というところらしいですね」

「本番は二倍か……配置には一苦労だね」

「鉢植えの類は移動できますから、スペースは問題ないと思いますよ。でも移動には皆さんのお力をお借りしないとどうしようもないですね」

 榛葉がくすりと笑う。

 まあ、本番が近づけば生徒の力を借りてもいいだろう。

 双子自身はもちろんのこと、上原は暁先生のためなら頑張るだろうし、みさきちはこういうお祭りには率先して関わりたがるタイプだし。

「まあ、僕に出来る範囲ならなんでも……ふああ」

 ……あれ?変だな。

 なんか、急に眠気が――

「おかしいな、急に……」

「――あらあら」

 榛葉の声がどこか遠くから響く。

「よろしいんですよ、先生――少し、お休みになっていて下さい」

 急速に僕の意識が深く沈んでいく中で、榛葉の声はあくまで優しく響く。

「貴方に出来ることはこれからも沢山あるのですから――」

 瞼が落ちる前、置く場所に迷っていた一つのキャンヴァスが視界に入る。

 まだ素描の段階の、そこに描かれていたものは。

 蕾のままでもつれあう、二茎の薔薇――いや、茨。

「今はただ――よい夢を」

 それは何故か、とても痛々しくて。

 だけど同時に、狂おしいほど清冽な。

 ――そんな、不思議な絵だった。


 ……夢を見た。

 白い、ただ白い壁の、大きな部屋。

 その中で泣いている、ふたりの少女。

 鏡に写したようにうり二つの彼女たちは、ある時は裸で、ある時は豪奢な服を着て。

 部屋にはあらゆる物が揃っていたけれど――ただ一つ、他者だけが居なかった。


 ……また夢を見た。

 そこは前と同じ部屋だったけれど、全てが違っていた。

 壁のあらゆる白は、様々な絵と文様で埋め尽くされていた。

 部屋にはあらゆる物が揃い、あらゆる物が描かれていたけれど――やはり他者は居なかった。


 そして僕は気がつくと――何故かベッドの上で、涙を流していた。

 …………。

 ――ベッド?

「……あれ?」

 むっくりと起きあがってみる。

 ――周囲はすでに夜だった。

 温室の屋根を通して星明かりが見える――温室?

 そう――ここはあの温室だ。だけど。

 僕が寝ていたベッドは何故か温室のど真ん中にあった。

 テーブルのあった場所に、まるで普段からそこにあったかのようにベッドが鎮座している。

「だれがこんなことを――榛葉か?」

 しかし、榛葉一人でこんなでかいベッドを運んで、その上僕を寝かしつけるようなことが出来るものだろうか。

 鉢植えの移動すら一苦労と言っていたのに。

 ――しかも。

 何故か僕はパンツ一丁のあられもない姿だった。

 ……ちじょ?

 いやいやいや。

 まさか榛葉に限ってそれはないだろう。

 しかし……だとしてもこの風景はどういうことか。

 改めて夜の温室を見渡して、あることに気づく。

 昼間置き場に悩んでいた絵が――いつのまにかきっちり配置されていた。

 ならばこれは、暁先生の悪戯……なのだろうか?

 ――そう言えば、大銀杏が言っていたような気がする。

 新しい学園七不思議の噂。

 月の無い夜に行われるという、夜の展覧会。

 ――つまり、仮設営は今日だけではなかった、ということなのだろうか。

「しかし……それにしても」

 この光景は、確かに壮観だった。

 温室の弱い照明とスポットを組み合わせた中に浮かび上がるそれらの絵は、率直に言って見る者に恐怖すら覚えさせるもので。まるで、闇から生まれた絵がその闇から逃れようと叫んでいるかのような――そんなどろりとした切迫感を見る者に植え付ける。

 不思議な印象に打たれて立ちつくす僕の背後から、静かに流れてくる――それは、解説。

「闇を恐れるがゆえに、空間を光で埋め尽くす――それが彼女たちの流儀と、暁先生は言いました」

 言葉の主は、僕にも流石に検討はつく。

「絵画とは光を実体化する試みである、と昔の誰かも言っていた。成程、ここにはその具現があるな――榛葉」

 振り返った僕の眼に、ゆらりと。

 影の中から、榛葉邑那は微笑んで――僕に告げる。

「しばし、お付き合い下さいませ――滝沢先生。彼女たちの、リハビリテーション……いえ」


 ――砂場遊びに。


「リハ――なんだああああっ!?」

 その言葉の意味を問い直す間もなく、榛葉の影から飛び出してきた何かが、僕をベッドに押し倒す。

「つかさ♪」

「つかさだ♪」

「「やっほう♪こんばんわこんばんわ!!」」

 二つの小さな頭に揺れる――金髪のツインテール。

「あそぶよ?」

「あそぶよ!?」

「た……高松姉妹っ!?」

 彼女らが、僕と――あそぶ。

 あそぶ?何を……何をして?

 何かもの凄く困ったことになりそうな気がした。

「きにしない♪」

「きにしないで♪」

 そう言って、ふたりはにへー、と同時に笑う。

「いや、気にしないでと言われても……」

 そんな僕の躊躇など一切関知しませんという悪戯っぽい表情で、ふたりはあくまで明るく宣言する。

「「ぜんぶぜんぶ」」

「「まかせてまかせて!」」

「何をまかせー……うぉおおおおおっ!?」

 反論する暇は与えられない。

 あっという間に、パンツをずり下ろされた僕の下半身は双子の目の前に。

「あはっ♪まだちいさい」

「まだちいさい♪」

 ステレオでちいさい言うな――いや、今気にすべきはそんなことではなく!

「でもたんしょーちがう」

「ほーけーともちがう」

「どうしよう♪どうしよう♪」

「じゃーおっきくしよう♪」

「おっきくしよう♪」

「「おっきくしよう!」」

 ユニゾンで両耳から僕の脳を溶かす嬌声と吐息。

 ――そして双子の舌は、僕をいきなり舐める。

「う……うぁああああっ?」

 両側から、僕の股間にぶら下がる肉塊をねぶり。

 亀頭を裏側から。中心から、その先から嘗め尽くしていく。

 たちまち中心に血が凝縮するのを感じる。

 紅い舌がちろちろと先端を舐め。

 真白い歯がひそやかにちくりちくりと幹に刺激を与える、そのたびに背筋をぞくりと快感が走る。

 あっという間にぱんぱんに膨張したそれを、彼女らは舐り、噛み、唾で潤滑しつつしゃぶり尽くしてゆく。

「ぐはああああっ!」

 暴発は突然で、急激だった。

 どぷっ!どぷどぴゅどぴゅううううううっ!!

 呆れるほど大量の精液が吹き上がり、撒き散らされる。

 双子の髪を、肌を、舌を、唇を汚していく。

「「あははははっ!出た♪出た♪いっぱい出た♪」」

 べとべとと降り注ぐ白濁の雨の中、双子は。

 ――笑っていた。 

 心底嬉しそうに、笑っていた。

「「もっとしよう♪もっとしよう?」」

「「――つかさとしよう♪そうだ、つかさとしよう♪」」


 虚脱して逆らう気力もない僕に、榛葉の声が届く。

「――彼女たちは、デウスガーデンにおける実力者の隠し子……いえ、忌み子として生まれました」

 ある意味、私と似ていますね――そう彼女は呟く。

「榛葉……君は」

 僕はその言葉の意味を深く知ることなく、ただ魅入られたようにその声を聴く。

 片方の耳に榛葉の淡々とした解説を納めながら、僕は双子の与える快楽の中を彷徨っている。

 汗に濡れた甘い体臭が僕を包み。

 喘ぎと嬌声が、僕を溶かしていく。

「ただ、私と違うのは――彼女たちが、より直接的な暴力に晒され続けてきたということ。デウスガーデンが、あらゆる快楽とあらゆるアトラクションを追求する企業であることはご存知でしょう」

 それは文字通り、すべての分野において快楽を追求し、顧客に提供するということ。

 法に触れるような、忌むべき唾棄すべきような分野であっても、それは変わらない――そう榛葉は言う。

「彼女等は――そう、実力者の子供であったからこそ、表に出る事を許されなかったのです」

「……どういう、ことだ」

「忌み子、と申し上げました」

 つまりは、権力闘争において弱点となるスキャンダル――不義と背徳から生まれた子。

「そしてそれ故にこそ、彼女たちはとある目的に最適の素材となったのです」

 高貴な血と、究極の性戯の双方をあわせもつ存在。

 そんな少女たちが存在するとすれば、確かにそれはその分野の「商品」として最適であるに違いない。

「彼女たちはそれ故に、生まれたときから顧客のあらゆる快楽に奉仕するために育てられました」

 文字通りの意味で、あらゆる種類の快楽に奉仕する――そのための生き人形として。 

 その目的のために彼女らは、幼少時から特殊な教育を施され――それ故に通常の意味での個性を発達させることが出来なかった。

「常にあらゆる状況、要望に対応するための教育――いえ、調教を受けた彼女らは、置換可能な記憶と性格を備えました――しかし、ただ一つの『自分自身』を選ぶ事はけして許されなかったのです」

 ああ、そうか――これは存在しない自己イメージの話だ。

 彼女らには――拠って立つべき「自分」が、そもそも存在しなかったのだ。

 そして彼女らは全ての穴と言う穴を、全ての感情と言う感情を蹂躙され――改変されてきた。

 様々な想像と言いようのない感情で揺れる僕を、しかし双子は快楽に引き戻す。


 

 ――先に僕の上に跨ってきたのは、千鳥?

 それとも、鶫?

「――千鳥がさき」

「千鳥がさき」

 双子が囁く。

 だけど――僕には、耳元で甘い吐息を漏らす彼女が果してどちらなのか、わからない。


 

 溺れていく僕が聴いているかどうかはさほど問題では無い、とでも言うように、榛葉の解説は淡々と続く。

「彼女らが学院に来たのは、殺すことすらスキャンダルとして利用されるから――」

 いわば権力闘争の中で、厄介者として――棄てられた。 

 文字通り、飽きた玩具を棄てるように。新鮮さを失ったアトラクションを廃止するように。

 売れなくなった商品を店頭から倉庫送りにするように――この学院に棄てた。

 そんな中で、彼女たちが商品として教育された行為以外に唯一興味を示したのが、絵画なのだという。

「暁先生の尽力によって、ですけどね」

 暁先生は彼女等の興味を絵画に集中させることによって、人格と個性の定着を図っているのだという。

 そしてそれは今のところ、ゆっくりと成功しつつある――らしい。

「ですが――それは精神の解放であっても、肉体の解放ではありません」

 彼女たちは、すでにあまりにも開発されてしまっているのです――そう榛葉は目を閉じて、僕に告げる。

 つまり、それは――今のような。

 双子だけでは埋められない――性への渇望。

「じゃあ、普段の問題行動は……」

 僕の呟きに榛葉は頷く。

「絵画表現だけでは満たされない性欲を発散するための補償行為――そういう事のようです。そしてそれは、演技を強要されるあまりに見失った『自己』の再構築過程における捌け口でもあります。言うなれば、彼女たちはそうして貴方や教師たちに怒られ――『罰を受けること』をも、意識下で望んでいるのですよ」

 過去から遠ざかろうとする双子に、彼女たち自身が罪の意識を抱く――そういうことなのだろうか。

「罰……それは、性的な意味で?」

「全ての意味において、です。それが一歩間違えば、再び自分を壊すと知りながら――ですが」

「……何故?そんな自ら火中の栗を拾うような真似を、彼女たちは」

 そんな僕の呟きに対して――とても哀しい眼で、榛葉邑那は、僕に微笑む。

「――忘れようと思っても、それはやはり自らの一部なんですよ」

 忘れたいけれど――それでも、忘れてはならないことがある。

「それが彼女等の根源でもあり、何であれ血肉となって学んできたことでもあるのですから」

 それが覗き込む度に傷を開き、血を流すような過去だとしても。

「傷の痛みを感じることで生きている実感を得る――そんな生き方もあるということです」

 過去――それは彼女たちの檻であると同時に、今を支える骨格でもあるのだと。

「ですから、せめて商品としてではなく、高松千鳥と鶫として、彼女等を抱いてあげられる人が必要でした」

 それもまた彼女らの性と生を一致させるために、必要な試みなのだと。

「彼女らが波にさらわれてしまう砂の城でなく、確かな自らの家を構築できるようになるまでは――それもまた必要な処置なのです」

 そこまで、一気に語り終えると。

「――あとは、賢明な滝沢先生ならば、お解りでしょう?」

 悪戯っぽくて優しくて、そしてちょっと哀しげな眼でそう告げて――榛葉は影の中に消えた。

 ――そして温室には、僕と双子だけが残される。


「いれるよ、せんせ――」

 ぬるり、とスムーズに僕の陰茎は千鳥の秘裂に飲み込まれた。

「あはっ――おっきい♪――つかさおっきいっ……」

「ずるいずるい――じゃあ鶫はこっち」

 そう言って鶫は僕の顔に恥骨をこすりつけてくる。

 僕の上で向かい合って、千鳥と鶫は互いの唇を、首を、胸をついばみ、舐める。

「あ……ふぅっ……はぁっ……はぁっ……」

 ぴちゃぴちゃと響く水音は、僕と千鳥の股間からか、それとも鶫の秘裂からか。

「ふぅっ――ふぅっ――あはあっ!」

「せんせ、せんせ……つかさ、つかさ……」

「もっと――もっと――」

 ややあって、ずるりと引き抜かれたかと思うと、今度は二人で僕のものを挟み、すでに溢れかえった愛液を塗りたくりながら、茎を無毛の股間でこねまわす。

「ふううん……ふぅっ、ふっ、ふっ……はぁっ……」

 アクロバティックなのに、僕には全く痛みはなく、さりとて無理をしているようにも見えず。

 一糸乱れぬそのコンビネーションに、僕は蕩かされていく。

 そんな中で――ああ。僕にも、少しずつ判ってきた。

 また、入れ替わる。

 今度挿入したのは――そう、鶫だ。 

 同じようで、やはり同じではない。

 二人はとても似ているけれど――それでもやはり、独立した個人だ。

「ひゃううううんっ!」 

 千鳥は少しだけ体が柔らかく、吸い付くようで。

 鶫の中は少しだけより窮屈で、きつく締め上げてくる。

「あはぁっ!つかさっ……つかさっ……!」

 同じように綺麗で、男を溺れさせる肢体でありながら……そのありようは少しずつ異なっている。

 あるいはそれすらも教育と適応の結果なのか?

 それとも、それが彼女らが獲得した個性の一部なのか――僕にはわからない。

 判るのは、二人の体温と息遣いと、濡れた目に宿る欲情と――


 ――涙。


 そう。

 だから僕は。 

 夢中でキスをして。

 その涙を舌で拭い取る。

 唇で吸い取る。

 そのたびに、彼女等の肉は僕の陰茎を、僕の指を、そして躰の全てを撫で、擦り、締め付ける。

「ああっ!つぐみっ!つぐみっ!いくっ!いくぞっ!」 

その言葉にぎゅうううううぅっと、鶫の膣が僕を一際きつく締め付けた瞬間――

「あああああっ!つかさっ――つかさあああっ!あはああああああああっ!」

 僕はしたたかに鶫の膣に放っていた。

 どくっ!どくどくどくどくっ!どくどくどぴゅうううっ!

「あかっ……あは……きもちいいよう……千鳥……」

「うん……うん……つぎはボクで……いいんだよね?」

 白濁が注ぎ込まれても、まだまだ二人は満たされていない。

 期待に満ち、欲情に濡れた――けれど、何処か棄てられるのを恐れる眼で、僕を見上げる。

 ――まだ僕は、彼女たちを満たしていない。

 その寂しさを、罪の意識を――ぬぐい去るだけのものを与えられていない。

 そうだ。二度放ったくらいで、宴は終わらない。

 だから、僕は。

「ああ――そうしてあげるよ……二人とも……満足させてやる」

「うん……うん……ちょうだい……せんせ」

 再び千鳥にゆっくり挿入する。

「あはっ――はあっ――きもちいい……あ……つぐみ?」

 鶫はいつのまにかペニスバンドを腰にぶら下げていて。

「ふふ――いっしょだよ♪」

 そのまま、躊躇なく千鳥の菊座に侵入していく。

「ぅはくぁっ――!」

一気に押し込まれた異物に、千鳥は舌を出しっぱなしにして悶える。

「はっ……はぁっ――はぁっ!」

 しかしそれにお構いなく、僕は千鳥を激しく揺らす。

「あああああっ!」

 僕と千鳥の動きにぴたりとへばりつくように、鶫もまた腰をくねらせて全ての快感を吸い取ろうとする。

「ああっ……ふっ……いいよう……せんせ、いいよう……」

 ステレオで、ユニゾンで、ハーモニーとなって奏でられる快楽の吐息。

 熱と湿気と、汗の臭いで、温室の中はむせ返るほどに充溢している。

「はあっ……ちどりっ!ちどりぃっ!」

「いっしょ……いっしょ……いっしょにいいっ……!鶫も、千鳥も一緒にいいいいっ!」

「「きてっ……せんせ、つかさっ……きてえええっ!いっしょに――いっしょにっ!」」

 双子の叫びが同時に両耳を叩いた瞬間、僕は決壊した。

「ぐはああああっ!」

「「いはああああああああああああっ!!」」

 どぷっ……どぴゅどびゅうううううううううううっ!

 三度目にして、一番大量の精液を僕は撃ち出した。

 それは狭く小さい千鳥の膣を埋め尽くしてなお、逆流し、溢れ出すほどに大量だった。

 ずるりと抜けてもまだ放出の勢いは衰えず、小さな双子のお尻を、お腹を白く汚し、染めていく。

「あ……はあ……はあっ……」

 そうして僕は。精液の匂いと彼女らの匂いが充満する温室で。

 小さな二人に挟まれるようにして、ベッドに倒れ込んだのだった。


 ――放心の中。

 僕は、双子の囁きを耳元で聴く。

「「二人は、せんせのこと嫌いじゃない」」

「鶫は、つかさが嫌いじゃない♪」

「千鳥は、つかさが嫌いじゃない♪」

「「ボクらの名前を呼んでくれたから」」

「「二人とも、みんなと同じに扱ってくれたから」」

「「だから」」

「みさきちはあげる♪」

「みさきちはあげる♪」

「しあわせになれ♪」

「しあわせになれ♪」

「「ボクらはそれを描くから」」

「「ぼくらは、それを描くから」」

「「しあわせを描きたいから」」

「「しあわせを、かきたいから」」

「「ボクらはそれでたのしくなる」」

「「ぼくらはそれで、楽しくなれる――」」

 

 本当に彼女たちがそう言ったのか。

 あるいは、虚脱の中での幻聴だったのかは――わからない。

 いずれにしても、そうして二人はすやすやと眠りについて。

 榛葉は眠る双子を優しく見やった後、ふらふらの僕を正面から見つめて、深々とお辞儀をする。

「お疲れ様でした――先生。色々、お聞きになりたい事があるのでは?」

「ああ、そうだな……仕組んだのは、やっぱり暁先生かい?」

「ええ。元々、彼女らの性衝動をなんとかコントロールしたい、というのがあの方からの依頼でした。暁先生には上原さんのことを考えると今は難しい、とのことですから――まあ、気持ちはわかります」

 あれで上原さんは鋭いですからね――と、榛葉はくすりと笑う。

「――なので、託されたわたしが滝沢先生を選びました」

「何故――僕だったんだ?」

「まだ未来の定まっていない段階の貴方にしか、この役目は託せませんでした。今を逃せば、このような企画は相沢さんに気付かれてしまったでしょうから」

「みさきち……いや、相沢が関係あるのか?」

 何かどきりとする言葉だなあ。

 まるで僕の気持ちなど、全てお見通しのような……

「……滝沢先生は、生徒の気持ちにもう少し敏感になるべきですね……いえ、わたしがそういうと、嫉妬に聞こえてしまうでしょうか」

「……?」

「まあ、あとは双子の希望です。フリーの男性教師の中で、滝沢先生が一番双子に気に入られていました――そういうことですよ」

 滝沢先生は意外と人気があるんですよ?と、彼女は悪戯っぽく笑う。

「ただ――所詮、今回は対症療法にすぎません」

 そう、彼女等は恐らく一生、それと付き合っていかなくてはいけないのだから。

「次回からは暁先生に、上原さんの件が落ち着いた所で改めてケアをお願いするようなことになるでしょうけど――ね」

 定期的かつ継続的にガス抜きが必要なのは、変わらない。

 いつか、あの二人が自分の足だけで、歩いていけるようになるまで。

 いつか、あの二人が自分の城を築くまで。

 でも――つまり、そういうことだ。 

 今回はあくまでも例外。イレギュラー。

 僕は、彼女たちの物語には入れない。 

 僕は、彼女らの題材であって――相棒じゃない。

 だから――これはたぶん、夢なのだ。


 そんな思いを引き取るかのように、榛葉はまた、僕に頭を下げる。

「改めて――先生、貴重な時間をありがとうございました」

 でも。今回のことだけならお礼を言うのはむしろこっちだよなあ、とか思ってしまう僕に。

「相沢さんとの時間はまだ充分にあります――ですから、今日のことは、忘れてくださいませ」

 しっかり釘を刺すことも忘れない榛葉。

 やはり、僕の感情は全て見透かされているようだ。

「あ……だが、そんな……」

「でも、今だけは、二人の側でただゆっくりとお休み下さい――夢が、終わるまで」

 その言葉とともに、何故か疲労と睡魔がどっと戻ってくる。

 ふらり――とベッドに、双子の間に再び倒れこみながら、僕は思う。

 判っている。理解はできている。

 僕を物語に入れないこと――それもまた、榛葉と暁先生の気遣い。

 ……だけど。

 じゃあ榛葉はどうなのだろう。

 何故、榛葉は双子の物語に関わろうとするんだ?

 過去は双子の分かちがたい一部――そう彼女は言った。

 同じ物を見てきたかのような、そんな口調で。

 ならば。ここに立つ彼女は――榛葉邑那の物語には、いったい誰が入れるというのだろう。

 彼女の相棒は――ケアしてくれる人間は――何処にいるんだ?

「……榛葉。君は――君自身は、どうなんだ?」

 朦朧とした中での、僕の最後の問いに。

 榛葉はただ、ひっそりと微笑んで。

 ――答えなかった。


 …………。

「――先生?」

 ……あれ?

「もう……何度ゆすっても起きて頂けないものですから、このままベッドへお連れしようかと思いましたよ?」

「え……えええ?」

 ……きょろきょろきょろ。

 時計を見る。……午後四時。

 僕はテーブルに突っ伏して眠っていた。

 どうやら、ずいぶんと寝こけていたらしい。

 テーブルには涎の、そして頬には何故か――涙の跡。

 紅茶は、すっかり冷めていた。

 口元をとりあえず拭って、それを飲み干す。

「……ごめん、なんか凄く長い夢を見てたような気がするよ」

「あらあらあら」

 そう言って、榛葉はいつものように微笑んでいる。

「……滝沢先生」

 照れ隠しに服をぱんぱん、と払う僕に、彼女は尋ねてきた。

「何かな?」

「――良い、夢でしたか?」

 動作を止めて、僕は考える。

 夢の中身を思い出して。

 ……激しく赤面する。

 言えるわけがない。

 双子が……あんなことやこんなことや口にするのもはばかられるようなそんなことをっ……!

 ……しかも、榛葉がそれをずっと見ていて――?

 うわあい。でも……まさかね?

「……夢、だよなあ」

「…………」

 でも。でも……そうだな。

「うーん……悪くない夢だった……かな。けれど、あれがもし夢だったのなら……」

「……だったなら?」

「いつか、ハッピーエンドになる夢をもう一度見たいな」

 そんな僕の返事を聴いて。

「……見れますよ……先生なら、きっと」

 そう言って、榛葉邑那は――もう一度微笑んだ。


 そんな訳で、自分の部屋に戻ってきた僕だったのだけど。

 部屋のカレンダーを見て、再び違和感を覚える。

「……あれ?」

 今日って日曜日……だったっけ?だったかなあ。

 なんか土曜日だったような気もするんだけど。

「夜更かし続きで、時間の感覚が狂ってるのかな……まあ、いいや」

 奇妙な夢の記憶を振り払って、僕はベッドに寝転がる。

 そう。今日の僕は、しっかり昼寝したにもかかわらず――

 何故か、酷く疲れていたのだった。


  I'll not leave thee, thou lone one!

  To pine on the stem;


  Since the lovely are sleeping,

  Go, sleep thou with them.


  Thus kindly I scatter

  Thy leaves o'er the bed,


  Where thy mates of the garden

  Lie scentless and dead.



P.S.


 ――それから、時は流れて。

 ある日、僕の元に届いたものがある。

「暑中見舞いでも来たのか?」

「違うよー!絵だよ絵。油絵!」

「……高松姉妹からか?」

「そーだよ!婚約祝いだってさ!」

 高松姉妹は個展を開くほどに有名になっていた。

 世間との折衝はエージェントを通じて行い、表に出ることのない謎の画家――そう呼ばれて結構な人気らしい。ちなみにエージェントは僕がよく知っている人だ。

 名前は言うまでもないだろうけど。

 しかし、既に発表されている作品からは、現在彼女たちが充実しているのが確かに見てとれた。

「どれ……見てみようか」

 いつのまにやら相沢美綺と結ばれていた僕は、半同棲中の部屋に届けられたその荷物をゆっくりと開けてみる――と。

「……これは、凄い……な」

「うわあ……!綺麗だね、これ……やっぱあの二人、すごいね!」

 美綺の感想は月並みだったが、実際の所、僕にもそれ以上の言葉は思い浮かばない。


 描かれていたのは、絡み合う二茎に大輪の花を咲かせる――黄金の薔薇だった。

 瑞々しく花開く、華やかでありながら清冽な、美の結晶。

 周囲に決して埋没せず。さりとて完全な孤独でもない。

 支えあうことで強さを手に入れた――二輪の花。


「なんだろ……」

 美綺が、上手く言えないけど、と前置きしてつぶやく。

「綺麗で、ちょっぴり寂しくて、だけど……幸せな感じのする絵だね」

 僕は彼女の言葉に、そっと頷く。

「ああ、そうだな……今の二人はきっと、幸せなんだろう――」

 そうして、僕と美綺は肩を寄せ合って。

 ずっと、その絵を見ていた。 


 ――遠い日の、おぼろげな夢の記憶は。

 掴もうとしても、軽やかにすり抜けていってしまうけど。 

 今の僕らと彼女らが幸せならば。

 未来の僕らと、彼女らが幸せならば。

 それはきっと良い事で。

 それは確かに、良い夢だったのだろう――


 ――それは、夏の名残りの薔薇。

 一時の夢――そして一枚の絵に宿る、記憶の欠片。



「The Last Rose Of Summer」end.