創作小説

「おとぎ話。」



 ――むかしむかしの、おはなしです。


 あるところに、せかいでいちばんよわいしにがみがおりました。

 ふだん、しにがみたちはじぶんとつながるしそんから、たましいをあつめてくらしていました。

 あつめたたましいがおおいほど――つまり、しそんがおおいほど、しにがみはよりつよくなれるのでした。

 しかし、そのしにがみには、もうしそんがひとりもいなかったのです。

 せんそうやびょうきで、ずっとまえにしにがみとつながるにんげんはひとりもいなくなっていました。

 しにがみはおもいました。

 ほかのしにがみから、たましいをうばってつよくなろう、と。

 そのためには、ほかのしにがみをたおして、かれらとしそんをつなぐたましいのいとをうばわねばなりません。

 しかし、いちばんよわいしにがみであるかれがたたかっても、かてるわけがありません。

 しにがみはおもいました。

「じぶんのかわりに、ほかのしにがみをたおしてくれるひとをさがそう」

 そこでしにがみはあるとき、ふたりのこどもととりひきをしました。

「じぶんのかわりに、しにがみたちをたおしてください」

 でも、ふつうにたのんでも、こどもがきくはずはありません。

 そこでしにがみは、ずるくてひどいとりひきをもちかけることにしました。 

 ひとりのおとこのこと、ひとりのおんなのこ。ふたりをまえにして、しにがみはいいました。

「うつくしいけれど、つらいしにかたと、みにくいけれどらくなしにかたと。どちらがいいですか」

「どちらもいやです」「どっちもいや」

 おとこのことおんなのこはこたえました。

 とうぜんですよね。

 でも、しにがみがききいれるはずもありません。

「でも、どのみちしにますよ?」

 ふたりのこどもはびっくりしましたが、そういわれてひっしにかんがえました。

 おんなのこはおもいました。

「どうせしぬのなら、うつくしくしにたいわ」

 おとこのこはおもいました。

「どうせしぬのなら、つらくないほうがいいなあ」

 ふたりのかんがえをきいたしにがみは、にっこりわらっていいました。

「それでは、そうしてあげましょう」

 しにがみは、ふたりのこどもをころしてしまいました。

 それから、しんでしまったふたりのまえでいいます。

「とりひきを、しましょう」

 ――いきかえりたければ、わたしのいうことをきいてください、と。

 おんなのこはたずねます。

「あたしたちみたいなこどもが、どうしてしにがみをたおせるの」

 しにがみはこたえます。

「しにがみは、いきているにんげんからたましいをうばうことはできます」

 ――でも、しんでいるにんげんからはうばえません。

 そうしにがみはいいました。

 ――つまり、とおとこのこはおもいます。

「ぼくたちはしんでいるから――しにがみは、ぼくたちをたおせない?」

 しにがみは、はくしゅしておとこのこをほめたたえました。

「そうです。きみたちはしんだまま、このまましにがみをたおしにゆくのです」

 とってもむじゅんしていますね。

 でも、しにがみがもちかけたのはそんなひどいとりひきだったのです。

 そしておんなのこは、のぞみのとおり、うつくしいままで。もういちどしぬこともなく。

 けれど、すべてのいたみをひきうけたままでゆかねばならないのでした。

 そしておとこのこは、のぞみのとおり、いたみもくるしみもかんじることなく。

 けれどそのからだはときがたつほどつめたく、みにくくくさってゆくのでした。

「ちんつうざいと、ぼうふざいをあげましょう。それと、しにがみをたおすためのぶきを」

 しんせつにそういうしにがみのかおは、とてもうれしそうで。

 そのえがおをみたこどもたちは、ああ、どうしようもないひとだなあ、とおもいつつも。

 そのときはまだ、じぶんたちがしんでいるということの、いみもよくわからないままでもあったので。

 だからでしょうか。おんなのこはおもいました。

「このしにがみもかわいそうなひとなんだわ。りふじんだけど、がんばるしかないのかしら」

 だからでしょうか。おとこのこはおもいました。

「どうかんがえてもぎゃくたいされたうえにさくしゅされてるけど。でも、おんなのこがやるきだし、がんばるしかないのかな」

 ――そうして、ふたりはそっとためいきをつきました。

 それが、ふたりにとってさいごの、あたたかいいきでした。


 そんなこんなで、いろいろと、あれこれと、おわってしまったあとで。

 おとこのことおんなのこは、ながいながい――とてもながい、たびにでたのでした。


 ――むかしむかしの、おはなしです。